研究課題/領域番号 |
26461832
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
篠原 廣行 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 名誉教授 (90138488)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | MRI / compressed sensing / image reconstruction / wavelet transform / total variation |
研究実績の概要 |
圧縮センシングを利用した1) 2次元ラジアルMRI,2) 2次元フーリエ変換MRI,3) 3次元フーリエ変換MRIの定量性について,数値実験と3名の放射線診断専門医による視覚評価から調べた.実験にはMcGill 大学Brain Web MRIデータベースの頭部MR画像(256×256×256画素)とその白質(WM),灰白質(GM),脳脊髄液(CSF)の組織画像の3次元画像を用いた.2次元画像には横断面を表すz座標(0-255)がz = 210,180,150,141,120のT1強調画像,T2強調画像,プロトン密度強調画像の5つの断面(計15断面)を用いた. 1) 2次元ラジアルMRI データ収集率R = 0.20(180度について投影数80),スパース変換にウェーブレット変換とTVを用いた共役勾配法によるCompressed Sensing (CS) 画像の平方根2乗誤差(RMSE%)は,投影データが雑音を含まないときT1強調画像と関心領域でそれぞれ (3.75-5.05),(1.54-10.24),T2強調画像で (8.75-11.65),(4.31-6.99),プロトン密度強調画像で(3.44-4.46),(1.34-3.09)であった.これら画像に対し,放射線診断専門医によるアーチファクト,解剖学的形状,組織コントラストの3項目を総合した視覚評価のスコアは,T1強調画像では概ね原画像に近い96%,T2強調画像では74-81%,プロトン密度強調画像では81-89%であった.雑音の大きさが40 dB以下のときのT1-CS画像とT2-CS画像は雑音がないときのCS画像に比較しそれほど劣化しなかった.PD-CS画像では延髄領域の画質低下が顕著であった.2) ではデータ収集率R = 0.50 ,3) ではデータ収集率R = 0.3がRMSE%と視覚評価の上で必要であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
圧縮センシングを用いたMRI(CS-MRI)の研究の多くは直交座標についてなされており,ラジアルMRIに関する報告は僅かである.頭部のT2強調画像の2次元ラジアルMRIに関し先行研究では,180度について48方向の投影データから画像再構成を行い,ストリークアーチファクトの除去が可能と報告している.しかし,この報告は解剖学的形状の比較的大まかな頭頂部の1断面のみを用いており,再構成画像の数値評価がなされていない.そのため,他の断面における投影数の影響,T2強調画像に加えT1強調画像,プロトン密度強調画像など3種類のコントラスト画像に対する画像再構成に必要な投影数や再構成画像の定量性については不明である.また,再構成画像の視覚評価がなされていないため,放射線診断専門医が圧縮センシングで作成した画像に対しどのような判断をするかについても不明である.その後,他の研究者から投影数48でT2強調画像について画像再構成を行った報告はない.そこで,投影数について詳細な検討を行った.Brain Web MRIデータベース画像の横断面を表すz座標(0-255)がz = 210,180,150,141,120のT1強調画像,T2強調画像,プロトン密度強調画像の5つの断面において, z = 210は延髄領域の断面で延髄,小脳延髄槽などがある.z = 180は小脳領域の断面で橋,小脳白質,小脳半球,第四脳室などがある.z = 150は基底核領域の断面で淡蒼球,シルビウス裂,尾状核,被核,第三脳室などがある.z = 141は基底核領域の断面で尾状核,被核,側脳室,視床などがある.z = 120は側脳室大部領域の断面で側脳室,大脳縦裂などがある. 3種類のコントラスト画像について投影数48で画像再構成を試みたが画質は悪く,数値評価のRMSE%と視覚評価で良好な結果を得るには投影数80が必要であった.
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今後の研究の推進方策 |
極座標サンプリングを行うラジアルMRIの画像再構成法を検証する目的で,直交座標サンプリングである2次元フーリエ変換MRIにウェーブレット変換とTVを用いた共役勾配法を用い画質を調べた結果,数値評価と視覚評価の両方の観点から収集率0.5が必要であった.また,3次元フーリエ変換MRIにおいても数値評価と視覚評価の両方を満足するには収集率0.3が必要であった.このことから,Brain Web MRIデータベースのプロトン密度強調画像,T1強調画像,T2強調画像の3種類のコントラスト画像では,ある程度収集率を高くしないと画質が改善されない可能性がある.そこで,ラジアルMRIでは先行研究で報告された180度について投影数48とは別に投影数を64あるいは80にした圧縮センシングを行う.一方,これまで実装した共役勾配法とPOCS法の他,MRI画像再構成には,ISTA (iterative shrinkage-thresholding algorithm),Fast ISTA (FISTA),Fast composite splitting algorithm (FCSA) などがある.閾値処理を用いたPOCS法はISTA法と類似した数式構造を持つと考えられる.FCSA法はウェーブレット変換とTV の2つの正則化を組み入れることが可能であり,かつ演算速度の速い最適化アルゴリズムなので研究に取り入れるためこれらの実装を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
Brain Web MRIデータベースで公表されている頭部のT1強調画像,T2強調画像,プロトン密度強調画像を圧縮センシングの原画像とするとき,数値評価と放射線診断専門医による視覚評価から,極座表サンプリングのラジアルMRIでは収集率 R = 0.2,直交座標サンプリングの2次元フーリエ変換MRIではR = 0.5,3次元フーリエ変換MRIではR = 0.3が必要であった.これらの研究成果については論文を投稿中のため,採択後に必要となる論文投稿料の執行は28年度に行わなかった.また, C言語プログラムをMatlabに書き換える段階に至らなかった.そのため,Matlab購入用とした予算を執行できなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
29年度もC言語主体でプログラム開発を進めるが,Matlabが不可欠になった段第で購入する予定にしている.数式処理に利用しているMathematica10.3を最新の11.0 にバージョンアップルを行う.新たな論文投稿原稿が完成次第,英文校正費用を執行する.
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