研究課題
これまでに我々は炭化水素(ドデカン)に211Rnを溶媒抽出法を用いて捕集することで、核反応で製造される211Rn以外の副反応生成物を、炭化水素を抽出剤とした有機溶媒法で効率的に分離できることを見いだしている。その一方で、211Rnからは211Atだけではなく207Poも生成する。この核種を除くことはジェネレータを作る上で重要な課題と考え、今年度の研究では、211Rnの壊変で生成する211At及び207Poの分離に関して検討を行った。ドデカンに抽出した211Rnから壊変して生成した211Atと207Poを逆抽出する溶媒として、従来用いてきたメタノールに加え水酸化ナトリウム水溶液も選択した。これらの溶媒と211Rnを含むドデカン溶液を接触させ溶媒抽出を行い、211Atと207Poを逆抽出し、これらの核種の回収率を求めた。さらに、回収した溶液にTeの金属粉末を加えて良く撹拌し、Teによる207Po除去効果を検討した。その結果、MeOH系では70%以上211Atを回収できるのに対して207Poは50~60%の回収率であった。またNaOH水溶液系では211Atが30~40%の回収率であるのに対して、207Poは40~50%の回収率であった。次にMeOHやNaOH水溶液中の207Poに対するTe金属粉末を用いた除去の検討では、MeOH系で207Poの除去率は70~80%であったがAtも50~90%の割合でTeに吸着することが判明した。一方、NaOH水溶液系では、211Atを水溶液中に100%近く残しつつ、207Poはほぼ100%近く除去出来ることが判明した。以上より、MeOH系で逆抽出を行った後に、溶媒を水酸化ナトリウム溶液系に置換しTe金属粉末と接触させることで211Atの回収率を高く保持しつつ、207Poを除去できる系を確立した。
2: おおむね順調に進展している
211Rn/211Atジェネレータを開発する上で、211Atと同時に211Rnから分岐生成する207Poの除去方法を決定できた。これにより湿式分離法を用いた211Rn/211Atジェネレータのデザインが徐々に形作られている。一方で実際に一連の動作をまとめたジェネレータ装置の作成には至っていないため、最終年度の研究として、ジェネレータの作成とその動作確認を行っている必要がある。
ジェネレータの輸送を行う際の周辺の温度を考慮した各種炭化水素溶媒へのRn捕集および、捕集後のRnの溶媒中での保持に関する検討を行い、ジェネレータに利用する最適炭化水素溶媒の決定を行う。その後、Rnの捕集からAtの回収までの一連の動作を行う事が可能なジェネレータモデルを作成する。一方で、回収した211Atは従来の核反応で製造する211Atと、最終的に得られる溶液中での化学系や価数などが異なる可能性がある。そこで従来に核反応で得られた211Atを用いた標識方法を基準としながら、標識に関する反応試薬の濃度やpH依存性などを検討する。我々が提案する211Rn/211Atジェネレータは、そこからミルキングをして得た211Atで標識した薬剤を実験モデル動物に投与し、抗腫瘍効果や薬物体内動態の評価を行って初めてその有用性が評価される。そこで、最終年度は、担癌動物モデルを用いた211At標識薬剤の薬物動態試験および211At放出α線による抗腫瘍効果の評価を行う。
H27年度は、211Atと同時に生成する207Poの分離に着目し、動物実験やジェネレータモデルの作成を行わなかったため、これらに関わる費用が発生しなかった。
H28年度には動物実験やジェネレータモデルの作成を行い、温度変化を組み込んだ新規ジェネレータの作成とその検証および結果に対する論文作成・学会発表を行う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
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