研究課題
乳ガンや頭頸部ガンに対する放射線治療後に虚血性心疾患や脳卒中の発症率がそれぞれ増加することが知られているが、近年比較的低線量の検査用医療放射線の人体への影響も指摘され始めている。我々は心臓CTの人体に及ぼす影響を生物学的に評価するために、心臓CT前後で患者より末梢血単核球を採取し、DNA損傷を定量的に評価した。心房細動に対するカテーテルアブレーション前の精査のための心臓CT前後に末梢血単核球のDNA二本鎖切断(DNA-DSB)および染色体異常は有意に増加した。DNA二本鎖切断はCT撮影24時間後にはほぼ前値程度に回復したが、その増加の程度はその後のカテーテルアブレーションの際の放射線被曝による増加と同程度だった。以上より、検査における放射線被曝によっても、DNA損傷が生じ得ることが明らかとなった。放射線被曝の動脈硬化形成に及ぼす影響を調べるために、ApoEノックアウトマウスに放射線を照射し動脈硬化の程度が影響を受けるか否か検討した。まず心臓より上部に14G照射したところ、死亡するマウスが多く詳細な解析が困難であった。次に7Gを同様に照射したところ死亡するマウスはいなかったが、動脈硬化病変の明らかな増悪や軽減は認められなかった。現在、より詳細に照射の条件を検討中である。放射線によるDNA障害は、直接的な作用のみならず、放射線によって生じる活性酸素種(ROS)によりもたらされることが知られている。血管平滑筋細胞をROSにて刺激するとDNAの酸化的損傷のみならずDNA-DSBが生じた。さらにこれにひき続き、Ataxia Telangiectasia Mutated (ATM), DNA-dependent protein kinase (DNA-PK), Chk2などのキナーゼの活性化が見られた。すなわちROSによりDNA-DSB が生じ、これにともないDNA損傷応答の活性化が生じることが明らかとなった。
3: やや遅れている
臨床的研究において、検査による放射線被ばくの人体への生物学的影響をDNA損傷の定量的評価により明らかにしたのは成果といえる。一方基礎的検討は、放射線の動脈硬化に対する影響をApoEノックアウトマウスにおいて明確にできていないことにより遅れている。飼料や放射線の被ばく量、照射範囲の微妙な差異のために、これまでの文献通りの結果の通りにならないものと思われる。
被曝量と照射範囲の至適化を急ぐ。照射範囲をより狭くし、その代わりに十分量の放射線を照射する。放射線を照射する年齢なども併せて変更して検討する予定である。また、DNA修復不全モデルマウスを用いて、同様の検討を先に行うのも一策かと考えている。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
PloS One
巻: 9 ページ: e103993
10.1371/journal.pone.0103993
Int J Radiat Oncol Biol Phys.
巻: 89 ページ: 736-44
10.1016/j.ijrobp.2014.03.031