乳ガンや頭頸部ガンに対する放射線治療後に虚血性心疾患や脳卒中などの発症率が増加することが近年問題になっている。本研究は、放射線による動脈硬化病変が増悪するメカニズムをDNA損傷の視点から明らかにすることを目的として行った。60-70日齢のオスのApoEノックアウトマウスの胸部大動脈にMBR-1520R-3を用いて放射線10Gyを照射した。胸部大動脈以外の部分は鉛により防護した。放射線照射後、標準食で2か月間飼育した後に、大動脈を採取した。血清コレステロール値、LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、中性脂肪、CRPは放射線照射群、非照射群の間で差は無かった。放射線照射群の大動脈弁輪部の動脈硬化巣面積は非照射群に比して有意に大であった(7.04±0.76 vs. 4.57±0.58、任意単位)。放射線を照射した大動脈弁輪部においては、マクロファージや顆粒球の浸潤が認められた。免疫組織化学染色による検討では、放射線照射群の大動脈弁輪部においてgammaH2AXとphospho-ATMの陽性細胞の増加が認められ、DNA損傷の蓄積およびDNA損傷応答の亢進が示唆された。これに対し、より遠位の胸部大動脈における動脈硬化は放射線照射群において非照射群と比べても差が無いか、むしろ減少していた。以上より、放射線による動脈硬化の増悪にDNA損傷応答が関与することが示唆された。動脈のなかでも部位によって放射線による影響が異なる可能性があり、今後部位別に放射線による影響を注意深く検討する必要がある。
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