研究課題/領域番号 |
26461866
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研究機関 | 群馬県衛生環境研究所 |
研究代表者 |
渡邉 直行 群馬県衛生環境研究所, 研究企画係, 研究員 (90311381)
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研究分担者 |
大島 康宏 独立行政法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究員 (00588676)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | RI内用療法 / 核医学 / 放射線科学 / α線 / 放射線生物影響 |
研究実績の概要 |
ヘリウム原子核の流れであるアルファ(α)線は紙や数ミリメートル(mm)の空気で阻止される物質透過力しか持たないが、α粒子の衝突により物質の原子軌道電子を弾き飛ばし、イオン化する強力な電離作用を持つ。細胞内を飛程するα粒子はDNAなどの生体高分子に直接的、間接的に障害を与え、ラジオアイソトープ(RI)内用療法で利用される放射性ヨウ素-131(I-131)などから放出されるベータ(β)粒子に比べて細胞を効率良く殺傷することができる。本研究ではRI内用療法に適すると考えられるα線放出核種の一つであるAt-211(放出粒子:1α、半減期:7.21時間、α線エネルギー:5.87/7.45 MeV)をサイクロトロンから製造、At-211から放出されるα線によるヒトがん細胞のDNA損傷(断片化)や細胞増殖抑制など放射線障害効果を測定し、副作用の少ない、α線を利用したがんの新しい低侵襲治療法開発の可能性を探ることを目的とする。平成26年度では、まず本研究で使用されるRI内用療法に適すると考えられるα線放出核種の一つであるAt-211 の安定した製造方法を確立した。独立行政法人日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所イオン照射研究施設(TIARA)にて、サイクロトロンを用いてBi-209(a、2n)At-211反応より、At-211を化学分離した。この際、照射ターゲットの調整方法、照射後のターゲットからのRIの回収方法についてHPLCを用いて至適条件の検討を行うとともに、ターゲットから高純度(99%以上)のRIを効率的に回収し、放射化学的に安定した方法を確立した。次に、At-211単体を培養ヒト卵巣がん細胞(SKOV3)とインキュベーションすることでがん細胞のDNA損傷の程度をコメットアッセイで測定した。DNA損傷にはRIの放射濃度依存性があることが確認され、α線によるヒトがん細胞への治療に係る放射線障害の可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではRI内用療法に適すると考えられるα線放出核種の一つであるAt-211(放出粒子:1α、半減期:7.21時間、α線エネルギー:5.9/7.4 MeV)をサイクロトロンから製造、At-211から放出されるα線によるヒトがん細胞のDNA損傷(断片化)や細胞増殖抑制など放射線障害効果を測定し、以下の事を明らかにすることを予定としている: (1)α線によるヒトがん細胞への、治療に結びつく放射線障害可能性の評価を行う。 (2)Microcellular Dosimetryに基づいて、α線によるヒトがん細胞の至適治療線量評価を行う。 (3)α線を用いた分子標的治療としての新しいRI内用療法の、実験動物を用いた臨床前研究の適否について評価を行う。 平成26年度は予定された上記(1)に関して、At-211の製造方法の確立とヒトがん細胞への放射線障害の可能性が探知され、ほぼ達成されたからである。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、α線によるがん細胞の放射線障害性をより詳細に評価する。 (1)コメットアッセイを用いたα線によるがん細胞のDNA障害の程度を、α線照射により生じた断片化DNA断片をコメットアッセイで分離・蛍光標識、デジタル蛍光顕微鏡にて検出し、培養ヒトがん細胞のDNA障害を測定し定量分析する予定である:①サイクロトロンから製造されたAt-211単体を培養ヒトがん細胞に添加、インキュベーション(At-211による細胞外照射)。その後、α線によるがん細胞の放射線障害を測定する。②サイクロトロンから製造されたAt-211単体をリポソ―ムなどを介して、培養ヒトがん細胞内に送達し、インキュベーション(At-211による細胞内照射)。その後、α線によるがん細胞の放射線障害を評価する。 (2)α線によるヒトがん細胞増殖に及ぼす影響を検討する予定である:96穴プレートに2000/穴の濃度で細胞を播種し、α線による照射。24時間後以降の各時点において、MTSを添加。更なる3時間培養後、プレートリーダ―にて490nmの吸光度を測定、MTSからformazanへの変換を定量的に測定し、細胞増殖抑制効果を評価する。また、At-211とヒトがん細胞とのインキュベーション後継続培養、経時的に細胞数を計測し細胞増殖抑制効果を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
リポソームなどを使用するAt-211単体挙動実験について当初予定よりも少なかったため、関連試薬費用が当初予定額よりも少なかったためである。次年度はリポソーム関連に係る実験などが本格化するため、未使用額については次年度研究費と併せて使用する計画である。
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次年度使用額の使用計画 |
当該予算は、①At-211製造・分離・精製に係る試薬、②がん細胞培養培地・血清など試薬、③コメットアッセイ用試薬、④リポソーム関連試薬、⑤実験器具、⑥研究成果公表のための旅費(国内学会など)、⑦資料整理・文献複写に使用される計画である。
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