研究課題/領域番号 |
26461876
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 孝之 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (60400678)
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研究分担者 |
伊達 広行 北海道大学, その他の研究科, 教授 (10197600)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 金ナノ粒子 / 放射線増感効果 / モンテカルロシミュレーション / 陽子線治療 |
研究実績の概要 |
陽子線が金ナノ粒子(GNP)と衝突した際に、金原子から電子を放出させ、GNP周囲にどの程度の放射線増感効果をもたらすのか(マイクロドシメトリ)をモンテカルロシミュレーションにより昨年度よりもさらに発展させて検証を行った。 本年度は陽子線のブラッグピーク付近でのGNPによる線量増加について検討し、臨床的に用いられる高エネルギー陽子線の線量分布がGNPの存在によって増加することを空間的に把握することを試みた。この検討は、(1) GNPに射突する直前の、水中陽子線のストラグリングを考慮したエネルギースペクトル(エネルギー分布)を計算するステップ、(2) 計算されたエネルギー分布をもつ陽子線束をGNPに照射し、発生した二次電子が周囲の水へ付与するエネルギーを計算するステップ、の2ステップに分けたシミュレーションにより行った。その結果、線量増加領域は陽子線照射方向のみならず、径方向に対しても数十ナノメートルの広がりを持つことが分かった。この傾向は、100 MeVと195 MeVのいずれの深さおいても確認された。また平均線量増加比(線量増加領域全体の線量増加比の平均)を、100 MeVと195 MeVに関して比較した結果、ブラッグピーク近傍内でより深い位置ほど、すなわち入射陽子線エネルギーが平均的に低くなるほど、平均線量増加比が高くなることが明らかとなった。次に、平均線量増加比から、GNPを実際の臨床に応用した場合に推定される線量の増加について考察を行った。100 MeVと195 MeVのP75におけるGNPの濃度と推定される線量増加比の関係は、腫瘍に対して従来よりも100 MeV陽子線では45%、195 MeV陽子線では36%、線量をより多く付与することができることが解析により推定された。 陽子線のエネルギーと線量増加領域の三次元的な広がりを評価することで、GNPを放射線増感剤として用いる際に必要となる実際的な基礎データを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も放射線生物的実験よりも優先して、放射線物理学的な検証により重点を置いて研究をさらに進めた。造影効果や照射時の位置合わせマーカー機能評価については昨年度既に検討済であり、既に昨年度成果の出ている、金ナノ粒子(GNP)に対する陽子線照射時の影響解明のためのモンテカルロシミュレーションによる検証をさらに発展させて研究を進めた。研究分担者と連携し、成果について3つの国内学会、4つの国際学会で発表を行うことができた。成果論文については現在執筆中であるが、本年度についてもおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
放射線物理学的な研究では、引き続き研究分担者と密に連携して、より実際の臨床での照射に近い条件における、金ナノ粒子に対する陽子線照射時の影響解明のためのモンテカルロシミュレーションをすすめていくのに加え、実際の陽子線ビームを用いた金ナノ粒子に対する照射実験を行い、励起された蛍光X線など、実測によって得られた線量分布データとの比較を行うことで、モンテカルロシミュレーションの計算精度の検証を行っていく必要があると考えている。 放射線生物学的実験については、表面修飾分子により腫瘍細胞表面抗原だけでなく、腫瘍細胞内の核や他の細胞小器官に対する特異的集積性を持たせた金ナノ粒子製剤を作成し、陽子線照射実験による放射線増感効果を検証していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も放射線生物学的研究よりも優先して、既に成果の出ている放射線物理学的な検証をさらに発展させて研究を進めたため、データ処理や発表原稿作成のためのパソコン購入費用に加えて、国内外の学会発表(2015年度は国内3学会、国際4学会)の旅費についての支出が想定を上回ったものの、事前に想定していた細胞培養や動物飼育に関わる費用や、金ナノ粒子製剤の購入費用、実験助手や加速器運転員等の人件費の支出が生じず、国内外で発表した研究内容について執筆中の論文についても、投稿時期が次年度になる見込みであるため、次年度使用額が生じる結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
放射線物理学的な研究では、金ナノ粒子(GNP)に対する陽子線照射時の影響解明のためのモンテカルロシミュレーションを、実際の臨床で想定される条件により近づけて検証を進めていく。照射室での陽子線ビームを用いた照射実験における金ナノ粒子製剤などの物品の購入費や、それにかかわる実験助手・加速器運転員等の人件費の支出を想定している。他に、次年度は本研究の最終年度であり、発表の成果報告にも重点をおくため、本研究に関連した書籍、文献の購入費用、データ処理や論文投稿・印刷に関わる費用、国内外の学会における発表や情報収集のための旅費としての支出を計画している。
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