研究課題/領域番号 |
26461881
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
細谷 紀子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00396748)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射線抵抗性 |
研究実績の概要 |
本研究では、がんにおいてDNA損傷応答の異常を誘導し得る新しい制御因子の候補として、様々ながんにおいて発現レベルが上昇している減数分裂関連分子SYCE2に注目した。前年までの研究結果から、正常上皮細胞株RPEにSYCE2を外来性に発現した細胞株が、ベクターのみを導入したコントロール細胞と比較して放射線抵抗性を示すこと、また、逆に、SYCE2を発現している細胞株においてSYCE2をノックダウンすると、放射線に対する細胞の感受性が亢進することが明らかになっていたことから、SYCE2の発現によってDNA損傷応答が影響を受けている可能性が考えられ、今年度は、標的となる候補分子の探索を続けてきた。その結果、SYCE2発現細胞においては、コントロール細胞に比べて、ATMの自己リン酸化が亢進していることが免疫沈降・ウエスタンブロット法や免疫染色法により示された。さらに、SYCE2発現細胞においてSYCE2をノックダウンすると、DNA二本鎖切断修復経路である相同組み換え修復と非相同末端結合の両経路の効率が低下することも明らかになった。これらのことから、SYCE2発現細胞では、ATMを介したDNA損傷応答が活性化されてDNA二本鎖切断修復が亢進し、放射線抵抗性が誘導されている可能性が示唆された。次に、SYCE2発現細胞をATMの阻害剤であるKU55933で処理すると、コントロール細胞に対してSYCE2発現細胞が示していた放射線抵抗性の表現型が消失することが分かり、ATM阻害剤の投与がSYCE2を発現するがん細胞における放射線抵抗性を克服するための1つの治療戦略になり得ることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SYCE2発現がん細胞は、放射線治療そのものに対しては抵抗性を示す可能性が高いものの、ATM阻害剤との併用により放射線の増感効果が得られることを示唆する結果が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
SYCE2がDNA損傷応答の活性化を引き起こす際の直接の分子標的が明らかになっていないため、SYCE2の作用機序に関して、より詳細な分子機構の解明を目指す。その結果をもとに、ATM阻害剤を含むDNA損傷応答阻害剤を用いた治療戦略について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
分子生物学的実験が順調に進捗し、これらの実験に用いる物品費が予定より少額で研究を遂行することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
この経費を次年度の物品費と合わせて、より詳細な分子機構の解明のために費やす予定である。
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