研究課題/領域番号 |
26461884
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 千太郎 京都大学, 原子炉実験所, 教授 (60163268)
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研究分担者 |
木梨 友子 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (80252534)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ホウ素中性子捕捉療法 / 中性子線 / 分割照射 / 化学療法剤の併用 |
研究実績の概要 |
ホウ素中性子捕捉がん治療(BNCT)は、グリオーマやメラノーマなどの放射線抵抗性の悪性腫瘍に高い効果を有することが知られている。しかしながら、ホウ素中性子捕捉により放出されるアルファ線並びにリチウム線の生物効果については十分な知見がない。本研究は、がん細胞の殺傷の主たる機序であるDNA二重鎖切断とその修復を指標とし、現在、臨床的に実施または計画されている①分割照射、②X線の後照射、③化学療法剤との併用に係わる基礎的な知見を得ることを目的としている。 平成26年度は、細胞の調製、照射方法の確認と線量評価、細胞生存率測定などをガンマ線を用いた予備的試験により実施し、完了した。平成27年度は、分割照射や化学療法剤との併用により生物効果(生存率や修復酵素のフォーカス形成)がどのように修飾されるかを明らかにするため、主としてガンマ線を用いた実験を行った。その結果、ガンマ線照射によって誘発される53BP1フォーカスの数は、分割照射によって30%程度低減されることなどが明らかとなった。これらの結果は、国際放射線防護会議(ICRR2015)において発表した。また、線質の違い(中性子線のエネルギープロファイル)の違いについてのデータ解析を完了し論文として発表した。 年度当初の研究計画では、これらのガンマ線による実験と並行して、BNCTに利用される熱中性子線、およびホウ素存在下の熱中性子線照射で発生するアルファ線とリチウム線の生物効果についても同様の実験を実施し、ガンマ線との比較を行う予定であったが、中性子源である研究用原子炉(KUR)が安全審査のため停止しており、中性子を用いた実験は行うことができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前述のように、本研究の目的はホウ素中性子捕捉療法の効果の向上を目的として、ホウ素中性子捕捉によって発生するアルファ線やリチウム線が①分割照射、②X線の後照射、③化学療法剤との併用によってどのような修飾を受けるかと明らかにすることである。実験手法の確立は初年度に順調に完了した。第2年度の平成27年度には対照群(未照射)、陽性対照群(ガンマ線照射)、熱中性子の単独照射群、およびホウ素中性子捕捉に伴う粒子線(アルファ線とリチウム線)照射群について実験を進める予定であった。しかしながら、東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機に、研究用原子炉にも新しい(より厳しい)規制基準が設定され、これに適合していることが求められたため、本研究に使用を予定していた研究用原子炉(KUR)は平成26年5月から運転を停止している。当初は27年後半から利用できるとのことであったが、審査が長引き27年度は使用できなかった。このため予定していた中性子を用いる実験が実施できていない。そこで、ガンマ線照射についての実験を優先して行ってきた。 原子炉実験所共同利用掛からの連絡によれば、本年度(28年)10月から研究用原子炉の中性子線の利用が可能ということであり、それ以降に中性子の実験を集中して実施する。現在は、陽性対照実験であるガンマ線を用いた実験を中心に研究を進めており、研究炉が停止している影響を出来るだけ小さくなるように工夫をしているが、若干、進捗が遅れていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
実験系は確立されており、ガンマ線を用いた実験を先行して進めることで、分割照射の影響や化学療法剤(当面、脳腫瘍を対象にテモゾールを使用)などについてデータを蓄積してきている。また、その成果は国際会議や学会誌に発表を行った。引き続きガンマ線を用いた実験研究を進めるとともに、本年10月から研究用原子炉が利用できるようになったら、中性子線、ならびにホウ素中性子捕捉により発生する粒子線を用いた実験を急ぎ実施して行く予定である。 研究内容としては、大きく変更は必要なと判断されるが、BNCTの臨床で求められている基礎データを提示できる研究を指向して行くこととする。具体的には、現在BNCTは単回照射であるが、中皮腫や大型の頭頸部癌にたいしては、2回の分割照射が必要になる場合があり、このような分割照射によって周辺正常組織への中性子線の影響がどのように変わるか、また、ホウ素を取り込んだ細胞への生物影響がどのように修飾されるかを明らかにする。また、脳腫瘍の臨床BNCTでは化学療法剤(テモゾール)を投与しつつBNCTを受ける治療例多く、その併用の生物効果について実験的に明らかにしたい。 原子炉中性子を用いた実験が中断しているが、ガンマ線を用いた実験が順調に進捗し、かつ、今年10月から中性子が利用できると思われるので、これらの研究を取りまとめて国際的な学術集会や学術雑誌に発表して行くこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究用原子炉が新規制基準への適合審査のため停止中であり、中性子を用いた一部の実験を行うことができなかった。このため、実験用の消耗品費、細胞購入費、細胞培養補助のための謝金、および研究発表のための旅費等が一部使用できなった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年10月頃より研究用原子炉の共同利用が再開され、熱中性子照射装置の利用も始まる予定である。これまでガンマ線を主体として実験を進めてきたが、今年度については、BNCTの基礎研究という本研究の目的に沿って、中性子を使用した実験を本格化していく。このため、実験用消耗品等の購入が必要であり、また、中性子線の線量測定のための資材や照射用のバイアルなどが新たに必要となってくるため、27年度の未使用額を使用して対応する予定である。
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