研究課題
本研究の目的は、低線量と比較して高線量のX線照射で特異的な分子生物学的機構を解明することにより、寡分割照射法の生物学的基盤を確立することである。それによって線量分割法の設定の個別化や寡分割照射法と放射線増感剤の併用といった治療法を開発し、治療可能比の更なる向上を目指している。研究計画は大きく分けて、1.放射線生存曲線における数理モデルを2種類のDNA2本鎖切断修復機構の活性動態を用いて構築すること、2.高線量域で有効な放射線増感剤を開発することである。1に関して、平成27年度には放射線増感作用に対してRepair-Misrepair Modelを用いた解析を行い、成果を学会誌に発表した。また、これまでの研究において LQモデルパラメータを測定した52種の癌細胞株を材料としてDNA2本鎖切断修復活性の定量を進めているところである。2に関して、平成27年度も引き続き、高線量特異的放射線増感剤の開発を目的としてPARP1阻害剤の実験を中心に行った。ヒト大腸癌細胞HCT116を用いて、ヌードマウスに皮下腫瘍を作成し異なる線量分割法を用いてX線照射を行い、tumor regrowth assayを施行した。PARP1阻害剤PJ34投与の有無によりregrowth delayを測定し、1回線量と放射線増感作用の程度の関連を検討した。PARP1阻害剤の放射線増感作用は1回10Gy投与の方が1回2Gyx5回投与よりも大きかった。これは、前年度までに施行した、2次元コロニー形成実験およびMulticellular spheroid を用いた実験結果に一致した。また、PARP1阻害剤が低線量(2Gy)と高線量(10Gy)照射後の細胞周期へ与える影響およびDNA2本鎖切断修復活性へ与える影響を測定し、現在結果解析を進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
これまでの実験では技術的な問題はなく、研究計画に大きな変更を要さずに遂行することができた。また、おおむね想定された結果を得ており、今後も計画通りに進める予定である。
1.放射線生存曲線における数理モデルをDNA2本鎖切断修復機構の活性動態を用いて構築する。52種の癌細胞株を材料としたDNA2本鎖切断修復活性の定量を進めているところであるが、今後はその結果を用いて数理モデルを構築する。また、非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え修復(HR)を構成する種々の遺伝子のノックアウト細胞の作製を進めており、これらのノックアウト細胞を利用した検討もすすめる。2.PARP1阻害剤の放射線増感作用のメカニズムを明らかにするこれまでの研究でPARP1阻害剤を放射線照射との併用した際において、細胞周期へ与える影響およびDNA2本鎖切断修復活性へ与える影響を測定した。更に、染色体転座やPolyploidyの定量を進め、高線量放射線増感作用のメカニズムを解明する。
研究はほぼ予定通りに遂行することができているが、実験に用いた消耗品費用に関して、現時点では予想よりも少ない金額となっている。主に使用したマウスの匹数が予定より少なかったためである。
次年度に繰り越して、予定されている実験を引き続き施行していく計画である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
The British Journal of Radiology
巻: 89 ページ: 20150724
10.1259/bjr.20150724