研究課題/領域番号 |
26461897
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
深田 淳一 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (50338159)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射線生物学 / グリオーマ |
研究実績の概要 |
昨年度に続いて、ヒト由来グリオーマ細胞の複数のセルラインに対して低線量単回照射(0.2Gy、0.4Gy、0.6Gy、0.8Gy)を施行し、細胞周期について追加検討を行った。細胞の回収は照射終了後30分、24時間、48時間で行った。いずれにおいても、明らかなG0/G1期とG2/M期の比率変化は認められなかった。次に低線量反復照射(0.2Gy×10回)を様々な照射間隔(1、3、10、30分)で行い、コロニー形成法で生残率を測定した。照射間隔が長くなるに従い、生残率の低下が観察された。そこで低線量反復照射後に細胞周期の変化をフローサイトメトリー法で測定した。その結果、照射間隔が長く、照射30分後に回収、測定した群でG0/G1期の低下が10%程度観察された。U_87の例では、G0/G1期の細胞比率がコントロール、0分、3分、10分、30分でそれぞれ56、56、58、55、45%であった。次に、アネキシンVを用いた早期アポトーシスの検出をフローサイトメトリー法で測定したところ、照射間隔が長い方がアポトーシス細胞の比率が増加した。LN_229の例では、コントロール、0分、3分、10分、30分でそれぞれ、0.5、1.0、0.8、1.2、3.4%であった。以上から、照射間隔が比較的長い低線量反復照射により、グリオーマ細胞の生存率低下、アポトーシス細胞の増加が観察され、照射直後では、細胞周期にも変化が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グリオーマ細胞セルラインを用いたコロニー形成法では、低線量反復照射において、前年度同様に再現性のある結果を得ることができた。コロニー形成法は結果が判明するまでに時間を要することから、他の実験と並行して施行することで、実験を効率的に進め、期間内に結果が判明するようにしている。 前年度に続いて低線量単回照射後の細胞周期をフローサイトメトリー法にて測定した。本年度も細胞周期の明らかな変化は検出できなかった。DNA量のピーク値にシフトが見られることについては、文献等も参考に他の解析法でも結果を確認、検討する。低線量反復照射後の細胞周期の測定結果から、照射間隔30分のサンプルを照射30分後に観察したところG0/G1期細胞の比率が軽度低下していた。アポトーシス細胞比率の増加も観察されたことから、注目すべき結果と考えている。 全体として、低線量反復照射による検討(コロニー形成法、フローサイトメトリー法)の結果より、30分間隔と比較的照射間隔が長い低線量反復照射に焦点を当て、さらに放射線超感受性の機序を詳細に検討する方向性が導き出されており、予定の実験をすべて終了していないものの2年目としてはおおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度からの継続項目として、低線量反復照射後の①細胞周期の変化、②アポトーシスの誘導、の2項目についてフローサイトメトリー法を用いて引き続き検討し、低線量反復照射の有効性について結果を確認する。②についてはTUNEL法による蛍光顕微鏡を用いた観察を行い、画像化した結果を確認することも可能である。さらに詳細な検討として新たに③細胞周期関連因子を複数選択し、主に抗体を用いて低線量反復照射後の発現量の変化をWestern blot 法、フローサイトメトリー法を用いて測定することでキーとなる因子について探索、特定する。これに加えて低線量照射ではDNA修復が起きにくいとされていることから、④γH2AX抗体を用いた免疫染色を行い、DNA修復ポイントの観察を蛍光顕微鏡で行うことで可視化を行い、定量化については同抗体を用いてフローサイトメトリー法で測定する。進捗状況によっては、⑤がん幹細胞マーカー(表面マーカー)の低線量反復照射前後の発現比率についてもフローサイトメトリーを用いて細胞の比率を測定し、放射線抵抗性との関連についても検討をすすめたい。 以上の通り、次年度は多方向から低線量反復照射、特に照射間隔の長い低線量反復照射について検討し、その有用性、機序を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
若干の未使用額の生じた理由は効率的な物品調達を行った結果である
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次年度使用額の使用計画 |
次年度(最終年度)分の予算と合わせて、主に消耗品等の購入に充てる予定である。
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