研究課題/領域番号 |
26461901
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
松本 謙一郎 独立行政法人放射線医学総合研究所, 重粒子医科学センター, チームリーダー (10297046)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | レドックスイメージング / 重粒子線 / 酸化ストレス / 放射線 / ラジカル還元 |
研究実績の概要 |
組織内の酸化還元(レドックス)状態は、組織における生物化学的反応の進行に深く関わり、生体に与えられた放射線等の酸化ストレスに対する初期応答とその結果を左右する。そのため放射線を照射した組織のレドックス状態の時間的変化は、「診断治療」を目指す将来の放射線治療において重要な鍵となる。本研究では、正常マウス脳について、X線または炭素線照射後のレドックス状態の経日変化を磁気共鳴レドックスイメージング(MRRI)によって観察した。また、造影効果に対する静磁場強度の影響について調べ、臨床導入の可能性について考察した。 放射線をマウス頭部に照射した後に経日的に7T水平型MRIにてT1強調Gradient echo法による連続撮像を行いながら、血液-脳関門透過型レドックス感受性造影剤(MC-PROXYL)を尾静脈投与し、その信号強度の変化を解析した。MC-PROXYLを投与した直後からマウス脳内のほぼ全域でT1強調画像の信号強度の増幅が認められ、続いて初期の速い減衰と後期の遅い減衰から成る二相性の減衰を示した。主にラジカルの還元を示す初期減衰速度k1の観察から、照射1~2日後に組織のレドックス変化が起こっていると考えられた。主にクリアランスを示す二相目の減衰速度k2は、8 Gy X線照射群と8 Gy炭素線照射群で照射1日後の減衰速度が速くなり、16 Gy炭素線照射群は減衰速度が遅くなった。このk2の増加は膜透過性の亢進が、k2の低下は血流の低下が原因として予想される。 静磁場強度1 Tと7 TのMRI装置を比較した結果、1 Tの方がMC-PROXYL によるT1強調信号の増幅率が大きく、試料の動きによる影響が少ない事がわかった。また、信号減衰速度の評価においては静磁場強度の影響は見られず、MRRIは臨床で汎用される1 T程度の装置においてより有利な評価法となることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MRIによるX線を照射したマウス脳のレドックス応答の評価と、磁気共鳴レドックスイメージング解析モデルの確立を目的とし、X線非照射時とX線照射1日後のレドックスイメージングを試みた。頭部は実験の際に固定しやすく、撮影時のスライス位置を毎回同じに設定することが可能なため、最初のモデルとしてマウス脳の検討を行った。続いてマウス脳の正常組織について、炭素線、X線照射後のレドックス状態の経日変化の観察を試みた。 その結果、初期減衰速度k1は、炭素線16 Gy照射群とX線8 Gy照射群において、放射線照射1日後、k1が非照射群に比べて遅くなるが、徐々に回復し、8日後には非照射群とほぼ変わらない値に回復した。クリアランス速度k2は照射1日後、炭素線16 Gy照射群で遅くなり、炭素線8 Gy照射群で速くなる異なった傾向が示され、照射した線量によって組織への影響が異なり、レドックス状態に違いが生じたと考えられた。X線あるいは炭素線を照射したマウス脳の磁気共鳴レドックスイメージング解析モデルを確立できた。これを用いて経時的にマウスを観察することで、放射線照射後の活性酸素種の影響が大きいタイミングを観察・評価できると考えられるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
放射線照射後のマウス脳におけるレドックス変化として、炭素線においてもX線においても照照射1日後にラジカル還元速度が速くなることが分かった。今後は、炭素線の照射条件を変えた場合、また対象臓器を筋肉および直腸として同様の解析を行う。更にマウスに植え付けた腫瘍組織についても同様の解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に関わる成果を発表するための学会出張旅費が不足することが11月の時点で分かったため、概算で前倒し請求を行ったが、学会出張後の精算時に余剰が生じてしまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として請求した助成金に合わせて消耗品費として使用する予定である。
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