研究実績の概要 |
本研究は粒子線の飛跡構造(トラック構造)と生物効果の関係を明らかにすることを試み、 バイオマーカーを用いて生物学的トラック構造を可視化し、放射線誘発フリーラジカルの影響等を含めた粒子線トラック構造とその生物効果に関する知見を取得し、粒子線特異的の生物応答の機構解明を3年間行った。最終年度は前年度で取得できなかったLET領域でのデータを取得し、過去のデータを併せてまとめた。 1)DNA損傷修復関連因子マーカーを用いた、粒子線トラック構造の生物学的可視化:粒子線トラックの可視化にはDNA二本鎖切断(DSB)のバイオマーカーであるH2AXのリン酸化を指標に、トラックの細胞核を通過した際に生成したDSB領域を可視化し、その傾向分布をイメージソフトで解析し、H2AXのリン酸化領域を定量した。 2)線質(LET)の違いによる生物学的トラック構造変化の可視化:炭素イオン線を用いて、LET依存的にH2AXのリン酸化による生物学的トラック領域の定量評価を行った。照射30分後にトラックの可視化を行った結果、LETが増加しても統計的にトラックサイズ(面積)は変化が無かったが、LETが420keV/umでは、照射24時間後のトラックサイズはLETが100, 200 keV/umよりも明らかに大きく、生成したDSBの質的違いが明らかになった。 3)ラジカル捕捉剤を用いた生物学的トラック構造変化の可視化:OHラジカル捕捉剤(DMSO)を照射1時間前に処理し、照射後にトラックサイズを定量したが、DMSOを添加した細胞でのトラックサイズは、小さくなる傾向を示した。 これらの成果をまとめると、LET増加に伴う生物効果の増大は、単純にトラックサイズの大きさに依存せず、トラック近傍にできたDSBの質が強く関わっていることが明らかになった。また、そのDSB生成には、OHラジカルの関与が少ない可能性が明らかになった。
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