研究課題
肝癌では、さまざまな線維化が共存し、肝癌の進展をサポートしていると考えられている。しかし、線維性変化が肝癌の進展および治療抵抗性にどのように関わっているのかについて、不明な点が多い。本研究は、線維化を形成する間質細胞や免疫細胞を治療標的と位置付けて、これらの細胞と癌細胞がどのような細胞間相互作用をして癌の進展に関わっているのかを明らかにし、新たな治療法を開発する分子基盤を構築しようとするものである。これまで、癌・非癌部組織の間質細胞や免疫細胞を、組織学的/顕微鏡的に識別してレーザーマイクロダイセクションによって癌細胞からアイソレートして回収し解析を行ってきた。しかし、組織の顕微鏡的識別では、やはり癌細胞の混入が避けられないことがわかってきた。そこで、本年度は、癌組織から間質細胞と免疫細胞をシングルセルに分散して遺伝子発現解析やフローサイトメトリーを試みた。顕微鏡的には、胆管細胞癌に比較して腫瘍間質細胞がほとんどないように見えた肝細胞癌組織にも間質細胞は存在し免疫細胞が浸潤していることが確認できた。分離した免疫細胞のフローサイトメトリーにより、CD4またはCD8陽性のT細胞を確認することができた。間質細胞については、シングルセルRT-PCRを行っているが、 Pre-Amplificationのステップで適切なプライマーの組み合わせを選択する必要があり、検討を行っている。免疫細胞の解析は、表面マーカーを指標にフローサイトメトリーを行うのが一般的であるが、各細胞系列に特異的に発現する転写因子を指標とした場合、このシングルセルRT-PCRは有用な手段であると考え、免疫細胞においても解析を試みている。
2: おおむね順調に進展している
前年度、癌細胞と間質細胞や免疫細胞の顕微鏡的識別が困難な場合が症例があり、課題であったが、シングルセル解析を導入することで解決を図っている。癌に浸潤した免疫細胞の分離と解析についてもプロトコールを作成してすすめている。
最近、原発性肝癌の網羅的ゲノム解析により、1つの腫瘍あたり平均で約10,000カ所もの変異があると報告された。肝癌細胞の性質はかなり多様であり、治療標的となりうる共通性の高い遺伝子や分子の異常を見出すことが困難であると推測され、肝癌組織の不均一性(heterogeneity)に対抗できる治療法として、間質細胞や免疫細胞を治療標的とした治療法は妥当であると考えられる。今後、私たちは癌免疫の観点から免疫細胞の詳細なポピュレーション解析を行っていこうと考えている。また、癌細胞との細胞間相互作用だけでなく、間質細胞と免疫細胞間の関係についても検討し、新たな治療標的を見出したいと考えている。
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