本研究は、胆道閉鎖症における自己肝温存症例のテロメア長を組織Q-FISH法によって明らかにし、テロメア長が肝予備能の指標になりうるか検討することが目的である。そのためには、まず胆道閉鎖症のテロメアを評価するにあたり、コントロールが必要である。非肝疾患の剖検例として0-5才の10例の肝臓と、肝移植時にグラフトとして使用せずに残ったドナー肝臓(29-36才)の6例をコントロールとした。これらの16例において組織Q-FISH法を行い、肝細胞のテロメア長を測定した。これらのデータを基に、正常肝のテロメア長の加齢曲線を明らかにした 自己肝温存の胆道閉鎖症に関しては、5例に組織Q-FISH法を施行したが、肝細胞のテロメアが測定できたのは2例であった。残りの3例は炎症が強く、組織Q-FISH法において核の染色が十分ではなく、テロメア長の測定が不可能であった。テロメア長が測定できた2例の自己肝温存の胆道閉鎖症は、コントロールの肝細胞のテロメア長の加齢曲線より明らかに低下していた。なお、これら2例の既存の肝予備能マーカーにおいて、Child-Pugh分類はAであり、PELDスコアも-6.7、-3.8と低値であったが、臨床的には肝移植適応と判断されていた。つまり、テロメア長以外の肝予備能マーカーは正常であるため、肝移植適応ありと判断できずに年単位で経過観察されてきたのが現状であった。その後、入院を繰り返す胆管炎を認め、難治性胆管炎と診断され、また、今回測定したテロメア長を参考に相対的肝移植適応ありと判断した。既存の肝予備能マーカーでは脳死肝移植は登録できないため、いずれも母親をドナーとする生体肝移植を施行するに至った。自己肝温存の胆道閉鎖症の肝予備能を把握することは困難であるが、肝細胞のテロメア長は、既存の肝予備能マーカーに比べて有用なマーカーになりうると考えられた。
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