外科的侵襲による呼吸・循環,栄養・代謝さらに免疫能の変化を,生体は恒常性を維持するように合目的な防御反応を起こす.時に過大侵襲によって免疫担当細胞から炎症性サイトカインが過剰に産生された場合には,SIRS(systemic inflammatory response syndrome)あるいはCARS(compensatory inflammatory response syndrome)と呼ばれる病態を惹起する.これまで我々は侵襲後の生体防御反応において脂肪組織が重要な役割を担っていると報告してきたが,最近ではmetabolic syndromeにおける脂肪組織へのマクロファージ浸潤とマクロファージにはM1型とM2型の2つのサブグループがあることが判明し,その意義と重要性が認識され研究が進められている.以上から脂肪組織とM1/M2マクロファージのクロストーク機構を考慮した手術侵襲後の合併症・臓器障害の病態解明は,外科学にとって極めて重要である. 平成26,27年度の研究から,マウスCecum ligation and puncture(CLP)の腹腔内洗浄液で脂肪細胞からのアディポネクチンが減弱し,TNF-α,MCP-1の発現が増加するが,PPAR-γアゴニスト投与でアディポネクチン産生の亢進,TNF-α,MCP-1発現を低下させることがわかった. 平成28年度では,浸潤するマクロファージと脂肪細胞が接触することによってCLPによって誘導される炎症性変化からマクロファージのアポトーシスを確認した.PPAR-γアゴニスト投与で脂肪組織に浸潤するマクロファージの数は増加したが,アポトーシスを起こしている細胞はM1マクロファージであることが示唆された.この現象は,CLP後のPPAR-γアゴニスト投与でM1からM2マクロファージへのシフトが起こっていると考えられた.
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