研究課題/領域番号 |
26461932
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
廣川 文鋭 大阪医科大学, 医学部, 講師 (20322373)
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研究分担者 |
内山 和久 大阪医科大学, 医学部, 教授 (80232867)
高井 真司 大阪医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80288703)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 急性肝不全 / 肥満細胞 / セリンプロテアーゼ / キマーゼ / マウス / 炎症細胞 / RT-PCR / 免疫染色 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、平成26年度に確立したマウス急性肝不全モデルを用いてキマーゼ阻害薬前投与による急性肝不全予防効果を検討した。 本マウス急性肝不全モデルでは、リポポリサッカライド(LPS)の4μg/kgとD-ガラクトサミン(Galn)の600 mg/kgを腹腔内に投与した後1時間の時点で、血液中の炎症誘発物質であるTumor necrosis factor (TNF)-αが著明に増加し、肝臓組織中のキマーゼ活性も有意に増加した。肝臓組織切片の解析より、LPS+D-Galn投与後7時間より好中球などの炎症細胞浸潤が増加し、血液中ASTとALTの有意な増加を認め、肝臓組織の壊死が見られた。生存率はLPS+D-Galn投与後24時間の時点で25%(20匹中5匹が生存)であった。 このモデルに対してキマーゼ阻害薬であるTY-51469の1、3、10 mg/kgをLPS+D-Galn投与前1時間に投与した。LPS+D-Galn投与した後1時間に増加してくるキマーゼ活性がキマーゼ阻害薬1、3 mg/kgの濃度では低下傾向を示したが、有意差を認めなかった。一方、キマーゼ阻害薬 10 mg/kgの濃度で有意に低下した。LPS+D-Galn投与後1時間で増加したTNF-αもキマーゼ阻害薬1、3 mg/kgの濃度では有意な低下を認めなかったが、 10 mg/kgで有意に低下した。LPS+D-Galn投与後1時間の時点で、キマーゼによって活性化されるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-9は増加したが、キマーゼ阻害薬の10 mg/kgでのみ有意に低下した。血液中のASTとALTもキマーゼ阻害薬の10 mg/kgで有意に抑制された。LPS+D-Galn投与後24時間の生存率は、1、3 mg/kgのキマーゼ阻害薬では有意な生存率に対する影響がなく、10 mg/kgで生存率がプラセボ群に比して有意に改善し、生存率は85%(20匹中17匹が生存)になった。 これらのことより、LPS+D-Galn投与前に10 mg/kg以上のキマーゼ阻害薬を前投与することによりLPS+D-Galn投与による急性肝不全の予防効果と生存率を改善できることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は平成26年度に確立したマウス劇症肝炎モデルに対するキマーゼ阻害薬前投与による肝障害予防効果と生存率に対する影響の解析を目標とした。急性肝不全モデルの作製には、LPSの4μg/kgとD-Galnの600 mg/kgを投与した1時間で、血液中の炎症マーカーのTNF-αをELISAにて測定し、有意に増加することが確認できた。肝臓組織中のキマーゼ活性は、キマーゼ活性測定用の合成基質にて測定した結果、LPS+D-Galn投与後1時間で有意に増加した。キマ-ゼにより活性化されるMMP-9もLPS+D-Galn投与後1時間で増加していた。血中のASTとALT は、LPS+D-Galn投与後7時間の時点で有意に増加した。摘出した肝臓を用いて好中球の発現指標として用いられるミエロペルオキシダーゼ(MPO)の遺伝子発現をTaqManプローブ法を用いたリアルタイムPCRにて定量した結果、LPS+D-Galn投与後7時間で有意に増加していた。また、肝臓組織切片をヘマトキシリン-エオジン染色して炎症細胞浸潤の集積と肝細胞の壊死が確認できた。また、抗MPO抗体を用いた免疫染色で有意に好中球の集積が増加していることも確認できた。キマーゼ阻害薬であるTY-51469の10 mg/kgの前投与により、LPS+D-Galn投与後1時間後のキマーゼ活性が有意に抑制された。また、キマーゼにより活性化されるMMP-9が抑制されたのはキマーゼ阻害によると考えられる。MMP-9は、細胞外マトリックスを分解し、炎症細胞浸潤を促進することより、そのMMP-9の低下が結果としてTNF-αの抑制や炎症細胞浸潤の抑制、肝障害の軽減に結びついたと考える。また、LPS+D-Galn投与後24時間における生存率もキマーゼ阻害薬前投与により有意に改善した。 今年度の目標であった急性肝不全モデルに対するキマーゼ阻害薬前投与による肝障害軽減効果と生存率の改善が確認できたことより概ね今年度の目標は達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、LPS(4μg/kg)とD-Galn(600 mg)の投与によるマウス急性肝不全モデルに対して、LPS+D-Galn投与後TNF-αが増加したのちにキマーゼ阻害薬を投与し、LPS+D-Galn投与後の肝障害や生存率に対する影響を解析する予定である。 具体的には、LPS+D-Galn投与後1時間の時点でキマーゼ阻害薬であるTY-51469の10 mg/kgを投与し、投与直前の時点とLPS+D-Galn投与後7時間(キマーゼ阻害薬投与後6時間)で採血を行い、肝臓を摘出する。また、LPS+D-Galn投与後24時間(キマーゼ阻害薬投与後23時間)の生存率を評価する。キマーゼ阻害薬投与直前とLPS+D-Galn投与後7時間(キマーゼ阻害薬投与後6時間)の血液でTNF-αとMMP-9を市販のELISAキットにて測定する。肝臓組織中のキマーゼ活性は、LPS+D-Galn投与後1、2、7時間(キマーゼ阻害薬投与直前、投与後1、6時間)の時点で肝臓を摘出し、キマーゼ活性は合成基質を用いて測定し、タンパク濃度で補正する。同時点のキマーゼ、MMP-9、TNF-αの遺伝子発現は、TaqManプローブ法によるリアルタイムPCRを行い、ハウスキーピング遺伝子の18s rRNAにて補正して定量する。組織切片標本用としては、LPS+D-Galn投与後7時間(キマーゼ阻害薬投与後6時間)の時点で肝臓をカルノア固定し、肝臓の障害程度はヘマトキシリン-エオジン染色したのち解析する。また、好中球浸潤の指標として抗MPO抗体を用いて免疫染色したのち、単位面積あたりのMPO陽性細胞(好中球)数を測定する。また、キマーゼの発現細胞である肥満細胞数は、同様にトルイジンブルー染色を行って測定する。 これらの解析結果より、LPS+D-Galn投与後にキマーゼ阻害薬を投与することで本急性肝不全モデルの肝障害軽減作用の有無および生存率に対する影響を解析し、炎症惹起後投与におけるキマーゼ阻害薬の有用性を明らかにしたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
基礎実験で経費として算出していた薬品購入等が滞っていたため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
薬品購入等
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