研究課題/領域番号 |
26461942
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
藤本 浩司 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (60456027)
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研究分担者 |
長嶋 健 千葉大学, 医学部附属病院, 准教授 (60292710)
榊原 雅裕 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (70375632)
三階 貴史 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (00375685)
宮崎 勝 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70166156)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 乳癌 / 脂肪細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は乳腺環境を特徴づける豊富な間質である脂肪組織に着目し、癌進展における脂肪細胞の役割の解明を目指すものである。 現在までの研究において、我々は癌部組織より得られた脂肪細胞(CAA)は、非癌部脂肪細胞(NBA)と比較してより未熟な形質を示し、癌細胞の走化性が増加することを示唆する知見を得ている。具体的には乳房全摘術症例より癌周囲および非癌部から脂肪組織を採取、コラゲナーゼ処理後、脂肪細胞を単離した。得られた脂肪細胞をコラーゲン3次元培養するとCAAは紡錘形に形体変化、増殖しやすく、その培養上清は癌細胞の走化性が上昇させる。 以上の研究を踏まえて、我々は単離直後の脂肪細胞にPCR法を用い、脂肪分化マーカー及びケモカインの発現を比較し、癌周囲脂肪細胞のプロファイルのさらなる検討を行った。結果、PPARγ、レプチン、アディポネクチンの発現には差が認められなかったが、CEBPαの発現は癌部で低下を認めた。病理標本におけるCEBPαの免疫染色と脂肪細胞の大きさの検討を行うと、NBAに比較しCAAは小さく、CEBPαの染色割合も低下し、未分化なフェノタイプを示すことが確認された。また、これらの培養上清を乳癌細胞株に添加し、変化を比較検討した結果、NBAと比較してCAAでは増殖性には有意な変化を与えなかったが、ER発現の有無にかかわらず乳癌細胞株の走化性を有意に増加させた。サイトカインアレイを行うとCAA培養上清中ではIL-6及びMCP-1濃度の上昇が認められ、PCRにおいてもCAAでは同因子の発現上昇が認められている。これら乳癌細胞-脂肪細胞の相互作用に対する理解は、脂肪細胞をターゲットとした新たな乳癌治療の礎となる可能性を秘めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
癌部及び非癌部脂肪細胞の単離、コラーゲンゲル3次元培養を行う系を確立することができ、培養上清を用いた抗体アレイによるスクリーニング及び比較検討も可能であった。 また、癌細胞と脂肪細胞のコラーゲンゲル3次元共培養も可能であり、観察が可能であった。癌部脂肪細胞は3次元コラーゲンゲル培養下では脂肪滴が減少し、紡錘形細胞となって増殖したが、非癌部脂肪細胞と比べ、その数が有意に増加した。さらに成熟脂肪細胞への分化マーカーであるC/EBPαの発現も癌部脂肪細胞では有意に低下していた。以上より、癌存在下において脂肪細胞はより未分化な状態にあることが示唆された。 これらの培養上清を乳癌細胞株に添加し、増殖性、走化性において検討を試みた結果、増殖性には有意な変化を与えないが、乳癌細胞株の走化性を有意に増加させることが分かった。さらに、サイトカインアレイを用いると癌部培養上清中ではIL-6及びMCP-1濃度の上昇が認められた。これらのことから脂肪細胞は乳癌存在下で、より未分化なプロファイルを示し、IL-6やMCP-1を含むサイトカインを分泌することで乳癌細胞の走化性増加に寄与することがわかり報告した(Fujisaki K, Fujimoto H et al. Breast Cancer Res Treat. 2015;150(2):255-63)。これらの未分化脂肪細胞と上皮間葉移行や乳癌増殖に寄与するエストロゲン産生への関わりについてさらに検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
研究当初は乳腺脂肪の特殊性と乳癌進展時における役割をマクロファージ動員の観点から着目していた。しかし、脂肪組織から脂肪細胞及びマクロファージの単離、培養を試みる過程で、マクロファージの単離・精製が難しい一方、脂肪細胞はCAAとNBAの形態学的相違が確認され、癌細胞の走化性を上昇させる直接効果も確認された。そのため以後の研究は癌環境下における脂肪細胞の脱分化とその癌細胞への影響に焦点を絞り研究を進めている。RNAアレイによる癌部と非癌部脂肪細胞の発現比較、及びその培養上清にて刺激された癌細胞の発現比較により治療ターゲットや予後因子となり得る候補因子を同定していく。さらにすでに関連が指摘されたC/EBPαの癌部脂肪細胞における発現の意味合いを臨床病理学的に検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、マクロファージを介した癌部脂肪細胞の特異性を考え、研究を進めていたが、癌環境下における脂肪細胞の脱分化と、癌細胞にもたらす効果が確認されたため、その後はそちらに焦点を絞り研究を進めている。癌部脂肪細胞及びそれに刺激を受けた癌細胞にRNAアレイを用いた網羅的解析を行った結果、いくつかの特徴的な変化が認められたが、それらの因子を絞り込む、予備検討に時間を要したため、次年度に検討を行う。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の候補因子に対して、臨床検体における発現の相違を比較検討し、臨床病理学的特徴や予後との関連について検討していく予定である。
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