研究実績の概要 |
近年,乳癌においてはestrogen receptor (ER), progesterone receptor (PR), human epidermal growth factor receptor 2 (HER2) の発現状況などからホルモン療法や分子標的療法などが選択されている.ER, PR, HER2が陰性であるトリプルネガティブ乳癌 (triple-negative breast cancer, TNBC) では明らかなターゲットがなく治療法はいまだ確立されていない.申請者はこれまでにTNBCの化学療法感受性を予測し得るバイオマーカーとしてE-cadherinが有用であることを明らかにしてきた.本研究はE-cadherinの発現の有無によりTNBCを細分類し,メチル化解析などの基礎的研究をすすめ,その分子機構の解明を図り,治療抵抗性と考えられるE-cadherin陰性症例をターゲットとした治療の探索と検証を目的とするものである. 分子生物学的アプローチにより,EMTを介したTNBCの悪性形質獲得の検証をすすめた.EMTの制御に関わるmicro-RNA (miR) 200bをLentiviral miRNA Expression Vectorを用いてTNBC細胞株にtransfectionさせ,安定細胞株であるmicro-RNA 200b強制発現TNBC細胞株 (miR200b MDA-MB-231) を樹立した.また,Lipofectamine® 3000 Reagentを用いてE-cadherin-GFP Plasmid VectorにてE-cadherin強制発現TNBC細胞株 (E-cadherin MDA-MB-231) を樹立し,これらの細胞株をEMT抑制モデルとして親株との比較検証をすすめたところ,EMT抑制モデルはluminalタイプに類似した細胞特性を有していた.さらに同様の手法を用いて,pEGFP-C1-AR Plasmid Vectorを導入したAR強制発現TNBC細胞株 (AR MDA-MB-231) を作成したところ,AR MDA-MB-231は内分泌療法やホルモン受容体陽性乳癌に対する新たな分子標的薬として期待されているpalbociclib (CDK4/6阻害剤) に感受性を有しており,これらのTNBCサブタイプに対する新たな治療戦略の可能性を明らかにした (AACR 2017).
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