研究実績の概要 |
1.臨床と研究の環境整備ならびに外科標本収集(担当:三浦、がんセンター病院の外科スタッフ、病理部) 病院診療情報ネットワークから独立させたコンピュータを準備し、患者情報および臨床検体のデータベースの構築と整備を行ってきた。年間約450例の消化器外科の手術症例について病理部と共同で、凍結標本および固定標本をティッシュバンクとして蓄積し、あわせて予後情報を含めた臨床情報をデータベース化してきた。 2.癌に特異的splicing異常をもつ候補遺伝子の探索(担当:三浦、研究所スタッフ) 継続してNCBIほかの各種データベースの情報をもとに、候補遺伝子のsplice variantsを探索してきた。27年度に報告した論文 (Matsuda Y, et al. Cancer Sci. 2016 May;107(5):619-28; Kato H, et al. Cancer Lett. 2015 Sep 1;365(2):223-8, ほか)で取り上げたserpini1, CHST11, the catalytic subunit of protein phosphatase 6 (Ppp6c)遺伝子なども解析対象と考える。 3.Splice variants解析(担当:三浦、研究所スタッフ) 上記のsplice variantsについてRT-PCRを基盤に解析を進めるとともに、同研究所癌化学療法部の田沼延公主任研究員らが取り組む好気代謝におけるpyruvate kinase M (PKM)遺伝子のsplice variants (PKM1, PKM2)の研究を支援、共同して取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで約2年、臨床および研究環境の整備および外科切除標本の収集は順調に達成でき、今後さらに充実させる基盤ができあがっている。外科切除標本をティッシュバンクとして蓄積し、予後情報など臨床情報をデータベース化してきた。Splice variantsの情報収集はNCBIデータベースを中心に行ってきたが、Dr. Christopher Lee (UCLA, CA, USA)らの癌特異的splice variantsを予測するASAPデータベース (Lee C, Nucleic Acids Res. 2003; 31,101)、Gene Expression Omnibus等の発現プロファイルやHuman Protein Atlas 等の蛋白情報のデータベースなども活用している。大腸癌その他の癌腫に特異的なsplice variantsの解析対象となる遺伝子として、VEGFA, UGT1A, PXR, cyclin D1, BIRC5 (survivin), DPD, K-RAS, SOX9, SLC39A14遺伝子などを考えてきたが、serpini1, CHST11, Ppp6c遺伝子なども候補として解析を続ける。特に田沼延公主任研究員らが取り組むPKM遺伝子のsplice variants (PKM1, PKM2)のPKMスイッチの研究ではノックインマウスも作成しており、癌化におけるsplice variantsの役割の解明が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究もこれまでと同様に推進していく。大腸癌その他の癌腫において、上記対象遺伝子のsplice variantsの発現および役割を探索する。さらにtrans-elementsの変異解析も進めていきたい。特に近年の研究によりαESRP1 (RBM35a), αESRP2 (RBM35b) が上皮細胞に特異的に発現するtrans-elementsとして同定され、大腸癌ではSRPK1、SRPK2その他のtrans-elementsの機能異常と発現異常が報告されており (Hope NR, Hum. Pathol. 2011; 42,393)、trans-elementsの癌における発現異常、cis-elementsへの影響も明らかにしたい。さらにcis-elementsの機能解析のために、cis-element配列をminigene constructに挿入、細胞導入にて機能を明らかにしていきたい。trans-elementsの機能解析として、αESRP1 (RBM35a)、αESRP2 (RBM35b)、SRPK1、SRPK2ほかのtrans-elementsをsiRNAでノックダウンあるいは発現制御を行って、癌化への役割を明らかにしたい。上述した研究計画を推進していくと同時に、得られた研究内容については、引き続き学会発表、論文発表を通して公表していきたい。
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