研究課題
本研究では、胃癌の悪性化進展過程における炎症性微小環境の関与とその分子機構を明らかにし、癌抑制遺伝子p53の誘導による胃癌細胞と微小環境を制御する新たな抗悪性化療法の開発を行う。平成27年度は、Intestinal type(腸型)のヒト高分化型胃癌細胞株MKN7が誘導する活性化線維芽細胞がMKN7の遊走能に及ぼす影響と炎症性サイトカインの関与について検討した。MKN7無血清培養上清を添加してヒト線維芽細胞株FEF-3に活性化線維芽細胞を誘導した際の培養上清を再びMKN7に添加した場合、MKN7の遊走能は有意に上昇した。活性化線維芽細胞が分泌する炎症性サイトカインTGF-βでMKN7を処理した場合、形態学的に紡錘形に変化したためEMTの誘導を介して間葉系形質を獲得している可能性が示唆された。次に、炎症性微小環境を構成するマクロファージ細胞株RAW264.7がMKN7の悪性化進展に及ぼす影響を検討した。炎症性微小環境に存在する3種類のマクロファージ(M0型、M1型、M2型)を想定し、3種類のRAW264.7(未処理(M0型)、LPS/IFN-γ処理(M1型)、IL-4処理(M2型))を作成した。3種類のRAW264.7をMKN7と共培養した場合、全てのタイプのRAW264.7がMKN7のE-カドヘリン発現を低下させ、炎症性微小環境に存在するマクロファージがMKN7にEMTを誘導する可能性が示唆された。次に、我々が開発したテロメラーゼ依存的に制限増殖して癌抑制遺伝子p53を誘導するアデノウイルス製剤OBP-702とすでに臨床応用されているp53を誘導する非増殖型アデノウイルス製剤Ad-p53を用いて、ヒト胃癌細胞株に対するin vitroでの抗腫瘍効果を検討した。全ての胃癌細胞株において、OBP-702はAd-p53よりも強力な抗腫瘍効果を示した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、Intestinal type(腸型)のヒト胃癌細胞株が誘導する活性化線維芽細胞が胃癌細胞の悪性化進展を誘導する事と炎症性サイトカインの関与を明らかにした。炎症性微小環境を構成するマクロファージが胃癌細胞の悪性化進展を誘導する事を明らかにした。ヒト胃癌細胞に対してp53を誘導するOBP-702はすでに臨床応用されているAd-p53よりも強力な抗腫瘍効果を起こす事を明らかにした。今後、胃癌細胞の悪性化進展に対するOBP-702やAd-p53を用いたp53誘導療法のin vivoでの治療効果やその分子機構を明らかにする事が期待され、計画はおおむね順調に進展していると評価できる。
平成28年度は、胃癌細胞の悪性化進展に対して癌抑制遺伝子p53を誘導する2種類のアデノウイルス製剤OBP-702、Ad-p53のin vivoにおける治療効果やその治療メカニズムについての検証を行う。
実験消耗品の購入が当初の予定より安くすんだため。
繰り越しとなった金額は主に次年度の実験消耗品に用いる予定である。
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