研究課題/領域番号 |
26461982
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
林 尚子 熊本大学, 医学部附属病院, 非常勤診療医師 (20452899)
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研究分担者 |
石本 崇胤 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 客員准教授 (00594889)
馬場 祥史 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 講師 (20599708)
岩槻 政晃 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (50452777)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | miR 223 / FBXW7 / MCL1 / c-Myc / c-Jun / HER2 / Trastuzumab |
研究実績の概要 |
H26年までに胃癌株化細胞を用いて、トラスツズマブ耐性株を作製し、microarrayを行い、miR 21-5p/PTEN経路がトラスツズマブ耐性に関わることを証明した。その結果を用いて、今回は近年、ユビキチン化によってアポトーシスを誘導して癌抑制に働くと報告されるFBXW7に注目した。トラスツズマブに対して感受性を示す胃癌細胞株(NCI-N87)を用い、FBXW7をsiにて発現抑制すると、トラスツズマブの感受性が低下した。 Microarrayの結果から、耐性株にて親株より Fold changeが5倍以上のmiRの中でFBXW7と結合するmiRを検索して、miR 223を同定した。保有している胃癌細胞株において、HER2・miR 223・FBXW7の発現をreal time PCR法とウエスタンブロット法を用いて確認した。miR 223とFBXW7の発現は逆相関の関係であった。また、Luciferase assayにおいてmiR 223とFBXW7がdirect bindingしていることを確認した。NCI-N87親株に対してmiR 223の強制発現を行ったところ、FBXW7発現は低下し、その下流であるMCL1・c-Myc・c-Junの発現は上昇した。元来、トラスツズマブに対して感受性を示していた細胞株が、miR 223強制発現にてトラスツズマブに対して耐性を示すように変化した。NCI-N87 トラスツズマブ耐性株に対してmiR 223の発現抑制を行ったところ、FBXW7発現は上昇し、その下流であるMCL1・c-Myc・c-Junの発現は低下した。miR 223発現抑制にて耐性化していた細胞が感受性を回復した。耐性の機序の一因として、抗アポトーシスによる変化を考えた。実際、miR 223強制発現株では、トラスツズマブ投与下においてアポトーシスの割合が減少し、さらに、アポトーシス関連タンパクの発現低下を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胃癌は世界的に死亡率が高く予後不良な癌腫の一つである。近年、様々な癌腫において標準化学療法に分子標的薬剤を追加することが予後を改善させることが報告される。HER2 陽性胃癌に対して分子標的治療薬であるトラスツズマブの有効性が示され、治療成績の向上が期待されるが、他の抗腫瘍薬と同様にその耐性が懸念されるところである。本研究は遺伝子発現調節機構として注目されているmicroRNA に着目し、前年度からさらに研究を重ねることで、新しいmicroRNA-gene pathwayを発見した。下記のことを達成し、このmiR 223-FBXW7 pathwayが抗HER2 抗体薬耐性機構に関わることを証明した。 ・FBXW7の発現抑制がトラスツズマブ感受性を低下させることをFBXW7 siを用いて、確認した。 ・トラスツズマブ耐性株と親株でmicroRNA microarray を用いて耐性に関与するmicroRNA の網羅的に解析を行った。さらに、in silicoにてFBXW7 を標的とし得るmiR 223を同定した。 ・miR 223の強制発現にてMCL1, c-Myc, c-JunといったFBXW7の 下流シグナルの変化とトラスツズマブ感受性が低下することと、逆に、miR 223の発現抑制によっても下流シグナルが変化しトラスツズマブ感受性が上昇することをそれぞれ胃癌細胞株において確認した。 ・トラスツズマブ耐性におけるメカニズムとして、抗アポトーシスが一因であることを確認した。 以上の結果を、国内・国外の学会を通じて発表を行い、またInternational Journal of Cancerに報告し、日本国内だけなく、国外に向けても発信した。
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今後の研究の推進方策 |
今までの検討はin vitroの結果のみであり、今後は臨床検体を用いて、in vitroの整合性を確認していきたい。臨床検体においてトラスツズマブ耐性症例と奏効症例の原発巣生検組織と血清を集積し、各検体でHER2,miR 223-FBXW7-MCL1 pathwayと前回報告したmiR 21-PTEN-p-AKT pathwayの発現を免疫染色やreal time PCR法を用いて評価し、各因子の相関関係を評価する。また、in vitroと同様にトラスツズマブ耐性症例と奏効症例の原発巣生検組織と血清を用いて、miR microarray を行い、トラスツズマブ耐性に関与するmicroRNA を同定し、in vitroでおこなったarrayと比較検討を行う。上記の結果をもとに集積したサンプルを用いて、生検組織でのmiR、PTEN/FBXW7 発現や血清中のmiR の発現を多数での症例でvalidation を行い、本研究の臨床的な妥当性を検証する。また、日常臨床で定期的に採取可能で、非侵襲的である末梢血や診断時に必ず施行される内視鏡下生検を用いて、そのpathwayの変化を検討することでトラスツズマブやその他の抗HER2抗体薬の感受性マーカーとしての臨床応用や、miR-gene pathway を標的とした治療へと発展させることも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
医局内保管の消耗品を使用することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
今までの検討はin vitroの結果のみであり、今後は臨床検体を用いて、in vitroの整合性を確認していきたいと考えている。そのため、消耗品やサンプル費に費用を要すると考える。また、得られた結果をデータとして管理してもらうための事務補佐員の人件費にも充てたい。
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