研究課題
平成26年は、ヒト胃癌細胞株を用い、低浸透圧刺激による細胞内パクリタキセル(PTX)取り込み・抗腫瘍作用への増強効果を解析した。まず、ヒト胃癌細胞株(MKN45)を各種低浸透圧環境下に、Oregon greenで蛍光標識されたPTX(Flutax-2)で2hr処理し、細胞内への取り込みをプレートリーダーで測定したところ、低浸透圧レベルに依存して、細胞内PTX濃度が上昇することが確認できた。また、細胞外へのPTX排出を測定したが、低浸透圧依存的な傾向は認められなかった。PTXの膜輸送体として知られる、OATP1B3、MDR1、MRP2のmRNA発現を解析したが、浸透圧変化に伴う遺伝子発現変化は認められず、低浸透圧に伴うPTXの細胞内取り込み亢進は、脂質二重層を介して生じた可能性が高いと考えられた。さらに、胃癌細胞株を低浸透圧刺激の有無・PTXの投与の有無別に4群化し、一定時間処理後に細胞増殖を解析したところ、低浸透圧刺激+PTX群の細胞増殖が、最も抑制された。現在、種々のイオン輸送体阻害薬・刺激薬を用いた際の、細胞内PTX取り込み状況を検証中である。また、マウス腹膜播種モデルを用い、腹膜播種結節を採取後、MVX10 MacroView(Olympus)を用いて解析したところ、PTXの播種結節への取り込みが確認できた。また、凍結切片を蛍光顕微鏡で観察したところ、PTXの腫瘍組織内分布状況の解析が可能であった。現在、種々の浸透圧・PTX濃度・処理時間における、播種結節へのPTX取り込み状況を解析中である。一方で、in vivoモデルにおける低浸透圧液腹腔内投与の安全性の確認実験を行い、マウス胃癌腹膜転移モデル(MKN45)を用いた低浸透圧処理による腹膜播種形成抑制効果を解明した(Biomed Res Int. 2014)。同時に、消化器癌におけるKCC3(Biomed Res Int. 2014)、NKCC1(World J Gastroenterol. 2014)等の、クロライドイオン輸送体の機能解析・臨床病理学的意義を解明した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画のうち、ヒト胃癌細胞株における低浸透圧刺激下での細胞内PTX取り込み・殺細胞効果の解析、PTX transporterの発現解析、マウス腹膜転移モデルにおける播種結節PTX取り込み解析の基礎実験は、ほぼ終了している。また、マウス胃癌腹膜転移モデルを用いた低浸透圧処理の安全性、腹膜播種形成抑制効果に関する基礎研究、消化器癌における種々のイオン輸送体の機能解析も進展しており、研究成果は既に国内外の学会で発表し、英文雑誌にも投稿・掲載されている。現在、in vitroでは、様々なイオン輸送体阻害薬・刺激薬を用いた際の細胞内へのPTX取り込み状況の検討、in vivoでは、種々の浸透圧・PTX濃度・処理時間における播種結節へのPTX取り込み状況を解析しており、研究目的・研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
次年度以降は、ヒト胃癌細胞株を用い、低浸透圧・PTX併用条件下において、種々の方法によるクロライドイオン輸送体制御を加えることにより、PTX取り込み・抗腫瘍作用の更なる増強を試みる。また同時に、低浸透圧・PTX併用条件下における水輸送体制御による影響の検討を行う。さらに、マウス腹膜転移モデルを用い、播種結節へのPTX取り込み効果増強に最適な低浸透圧処理条件を検討した後、低浸透圧併用PTX腹腔内投与の播種性進展抑制効果検討する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 13件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (13件)
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