研究課題
平成27年は、ヒト胃癌細胞株を用い、トリプシン処理後、浮遊細胞(single cell)の状態での低浸透圧刺激による細胞内パクリタキセル(PTX)取り込み・抗腫瘍作用への増強効果を解析した。Oregon greenで蛍光標識されたPTX (Flutax-2)で処理し、細胞内へのPTX取り込みをフローサイトメトリーで解析したところ、低浸透圧レベルに依存して、細胞内PTX濃度が上昇することが確認できた。さらに、胃癌細胞株を低浸透圧刺激の有無・PTXの投与の有無別に、single cellの状態で一定時間処理後に再培養し、細胞増殖を解析したところ、低浸透圧刺激+PTX群の細胞増殖が最も抑制された。また、ヌードマウス腹膜播種モデルを用い、播種結節へのPTX取り込みをMVX10 MacroView (Olympus)を用いて解析したところ、浸透圧の低下に伴い、蛍光標識されたPTXの播種結節への取り込みが上昇することが確認できた。一方で、ヒト胃癌細胞株における低浸透圧殺細胞効果が、カルシウムブロッカーを用いることにより、調節性容積減少(RVD)の抑制を介して増強されることをin vitro、in vivo両実験系で明らかにした。また、水輸送体の制御を介してRVDを抑制し、低浸透圧殺細胞効果が増強されることも示した。同時に、消化器癌におけるCA12(Journal of Cancer. 2015)、AE1、AE2、NHE1等の、pH制御因子の機能解析・臨床病理学的意義を解明した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画のうち、ヒト胃癌細胞株(接着・浮遊細胞の両状態)における低浸透圧刺激下での細胞内PTX取り込み・殺細胞効果の解析、PTX transporterの発現解析、マウス腹膜転移モデルにおける低浸透圧刺激下での播種結節PTX取り込み解析、マウス胃癌腹膜転移モデルを用いた低浸透圧処理の安全性、腹膜播種形成抑制効果に関する基礎実験は、ほぼ終了している。また、カルシウムチャネル・水輸送体に着目した新たな低浸透圧殺細胞効果増強に関する基礎研究、消化器癌における種々のイオン輸送体・pH制御因子の機能解析も進展しており、研究成果は既に学会で発表し、英文雑誌にも投稿・掲載されている。現在、低浸透圧刺激下での細胞内PTX取り込み亢進の、具体的メカニズム解明のための研究も進行しており、研究目的・研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
次年度以降は、低浸透圧刺激下での細胞内PTX取り込み亢進の、具体的メカニズム解明を試みる。即ち、PTXの膜輸送体(OATP1B3、MDR1、MRP2)の阻害剤や、水銀を用いて水輸送をブロックした条件下での、低浸透圧刺激下での細胞内PTX取り込み状況の変化をフローサイトメトリーで解析する。それにより、低浸透圧刺激下での細胞内PTX取り込み亢進が、脂質二重層を介するものであるかどうかを検証する。さらに、マウス腹膜転移モデルを用い、播種結節へのPTX取り込み効果増強に最適な低浸透圧処理条件を検討した後、低浸透圧併用PTX腹腔内投与の播種性進展抑制効果検討する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (15件)
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