研究課題/領域番号 |
26461994
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
岩谷 岳 岩手医科大学, 医学部, 講師 (70405801)
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研究分担者 |
若林 剛 岩手医科大学, 医学部, 教授 (50175064) [辞退]
西塚 哲 岩手医科大学, 医学部, 講師 (50453311)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒストンmRNA / microRNA 760 / 胃癌 / 食道癌 |
研究実績の概要 |
histone mRNA/ microRNA 760による胃癌の浸潤・転移の制御機構について、1)癌関連線維芽細胞に代表される非腫瘍性宿主細胞への影響 2)複数のmicroRNAによるhistone制御機構 3)histone mRNAの特徴的な構造とmicroRNA導入効果 4)胃癌以外の他癌腫も含めた検討に焦点をあて研究を進行中である。胃癌細胞・線維芽細胞の共培養実験において、浮遊癌細胞 (KATOIII)を線維芽細胞と共培養すると、癌細胞の浮遊性が低下し線維芽細胞上に凝集・接着することを明らかにした。この現象は癌転移を考える上で興味深く、histone mRNA/microRNA発現との関連を検証中である。胃癌以外の癌腫として食道扁平上皮癌の検討では、食道癌症例のRNA seqによる網羅的遺伝子発現解析から、食道癌においても多数のhistone mRNAの発現低下が生じていること、これらのhistone mRNAはmiR 760との結合が予測されることをin silico解析から明らかにした。これらの消化器癌以外にも、miR 760が乳癌細胞の増殖・浸潤・遊走能を低下させることや乳癌抗癌剤抵抗性を上昇させることが報告されており、幅広い癌腫でmiR 760の発現制御が悪性度に関連することが示唆される。胃癌細胞・骨髄線維芽細胞におけるmiR 760を含むmiR760の強制発現・knockdown実験では、予測した通りのhistone mRNAの変化や細胞機能の変化を確認できていない。これには多数のhistone mRNAと複数のmicroRNAが複雑に関連していることが原因となっている可能性がある。効率的に複数のmicroRNAを抑制する機構の一つとして、histone mRNAの環状RNA (circular RNA)形成についても検討を加えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
宿主細胞との関連について、骨髄由来繊維が細胞 (UE6E7T-12)と胃癌細胞の共培養実験では、miR 760の強制発現/knockdownによる胃癌細胞・線維芽細胞におけるhistone mRNAの発現変化は確認できなかった。しかし、浮遊癌細胞 (KATOIII)を線維芽細胞と共培養すると、癌細胞の浮遊性が低下し線維芽細胞上に凝集・接着することを明らかにした。この現象は癌転移を考える上で興味深く、histone mRNA/microRNA発現との関連を検証中である。胃癌患者骨髄中で発現上昇する複数のhistone mRNAにおけるmicroRNA結合予測アルゴリズムではmiR 760の他にmiR-1276, miR4766-5p, miR-1291, miR-4521の結合も予測された。胃癌患者骨髄のmicroRNA マイクロアレイではこれらのmicroRNA発現も低下が見られた。先行研究でのmiR 760強制導入によるHistone mRNAの発現低下は短時間に限られ、またknockdownによる発現変化は確認できなかったため、単独のmicroRNAによるhistone mRNAの発現調節機能は他のmicroRNAにより代償されることが予測された。そこで胃癌細胞・骨髄由来線維芽細胞におけるmiR 760とmiR-1276, miR4766-5pの同時導入・同時抑制実験を施行したが、やはりhistone mRNAの発現変化は確認できなかった。胃癌以外の癌腫として食道扁平上皮癌の検討を行った。食道癌におけるRNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析では、食道癌組織では正常粘膜に比較すると胃癌と同様多数のhistone mRNAの発現が低下していることが確認された。これらのhistone mRNAに対するmicroRNA結合予測アルゴリズムによる解析では、miR 760の結合が予測された。Histone mRNA/microRNAの異常は胃癌に限らず多くの癌腫で共通した異常であることが予測された。
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今後の研究の推進方策 |
乳癌症例および乳癌培養細胞における検討では、化学療法に感受性のある乳癌に比較して化学療法抵抗性乳癌ではmiR 760発現が有意に低下していることが報告されている (Lv J et al, Biomed Pharmacother. 2015)。また、miR760発現は乳癌細胞の増殖と浸潤・遊走能を低下させるとともに乳癌幹細胞数を減少させることが示されている (Han ML, Biomed Pharmacother, 2016)。miR 760発現の低下は消化器癌に限らず、多くの癌腫の悪性度に関連することが考えられる。 胃癌細胞株/骨髄由来線維芽細胞株へのmiR 760およびその他のmicroRNAの導入により、予測した通りのhistone mRNAの変化や細胞機能の変化を確認できていない。これには多数のhistone mRNAと複数のmicroRNAが複雑に関連していることが原因となっている可能性がある。効率的に複数のmicroRNAを抑制する機構として、近年noncoding RNAの一つの形態として環状RNA (circular RNA)が注目されている。histone mRNAは通常stem loop 構造をとるが、発生段階や癌発生のある時点ではpoly A tail を呈することが知られている。癌進展の際にhistone mRNAが環状構造を呈しmiR 760, miR-1276, miR4766-5p, miR-1291, miR-4521など複数のmicroRNAのspongeとして働くという仮説も含めて検討を行っている。 また、食道扁平上皮癌臨床検体および食道癌細胞株におけるmiR 760とhistone mRNA発現状態について検索を進め、胃癌におけるhistone mRNA/microRNAの機構との共通点、相違点について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品として試薬にあてるため、実験計画準備が整ってから注文を予定。
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次年度使用額の使用計画 |
RNA 抽出キットおよび抗体に使用予定。
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