研究課題/領域番号 |
26461995
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
秋山 有史 岩手医科大学, 医学部, 助教 (10405798)
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研究分担者 |
岩谷 岳 岩手医科大学, 医学部, 講師 (70405801)
西塚 哲 岩手医科大学, 医学部, 講師 (50453311)
若林 剛 岩手医科大学, 医学部, 教授 (50175064)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | (1) 食道癌 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
次世代シークエンサーを用いた網羅的転写産物解析により、食道扁平上皮癌組織で正常粘膜に比較して有意に発現低下する遺伝子として膜型セリンプロテアーゼTMPRSS11B (Transmembrane Protease Serine 11B)を同定した。同様の構造を呈するTMPRSS11 family (A, B, BNL, D, E, Fの6遺伝子)は4番染色体長腕 4q13.2にクラスターを形成するが、このすべてが食道癌組織で発現低下していた。本研究では、TMPRSS11BおよびTMPRSS11 familyの食道扁平上皮癌における癌抑制遺伝子としての機能を明らかにする。また、TMPRSS11の基質、関連するpathway、不活化メカニズムおよびTMPRSS11 familyを制御する遺伝子を明らかにし、食道がんの新規診断・治療法の開発を目的とする。 2014年度は、主に食道癌症例におけるTMPRSS11BのRNA発現状態について臨床検体での検討を行った。これまで20症例の検討を行ったが、全例で食道癌組織において正常粘膜に比し発現低下を確認した。100例程度まで症例を増加し、TMPRSS11B発現状態と臨床病理学的所見との比較検討を行う予定であるが、食道癌症例では非常に高率に発現低下が認められており、癌化のかなりはやい段階で異常が生じているものと考えられる。免疫染色でも、まだ数例の条件検討の段階であるが、やはり食道癌部で発現が低下を認めた。TMPRSS11Bの不活化機序としてpromoter領域の高メチル化が予測されたが、食道扁平上皮癌細胞10株すべてで、5-Aza-dC処理によるTMPRSS11B発現の回復が認められた。 現在、RNA発現、蛋白発現を症例追加し検討中である。また、メチル化部位の同定も試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、食道扁平上皮癌臨床検体におけるTMPRSS11B遺伝子・タンパクの発現状況から、臨床病理学的意義やその特徴を明らかにする。またTMPRSS11 familyについても同様に発現解析を行う。 食道癌組織におけるTMPRSS11B mRNA発現低下は症例を増やしても高率に認められた。また、免疫染色による蛋白レベルでの解析でもやはり食道癌組織における発現低下が明らかとなった。また、不活化機序として遺伝子のメチル化を予測してが、食道扁平上皮癌細胞での5-Aza-dC処理によるTMPRSS11B発現の回復が認められた。以上、研究立案当初より予測していた結果どおりの結果がえられている。 しかし、real time PCR (TaqMAn PCR) による発現解析の際に、当初control RNAとして市販されている2社のhuman control RNAを使用したが、結果がうまくえられず若干の時間を要した。これは、human control RNA上の増幅領域にSNPが存在し、PCR primerやProbeの結合を妨げているものと思われた。臨床検体の正常組織RNAをcontrolとして以後は実験を進めた。また、TMPRSS11B遺伝子導入実験、knockdownによる細胞機能解析は今後施行していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
計画にしたがって研究を推進でいていく予定である。臨床症例数の増加、TMPRSS11B発現と臨床病理学的事項との関連からその機能を推察する。TMPRSS11B不活化機構として考えられる高メチル化について、バイサルファイトシークエンスによりメチル化部位を確認する。TMPRSS11B familyを発現制御する遺伝子が存在すれば、それは有効な食道癌の有効な治療標的となりうる。アレイデータからの共発現解析/Gene set enrichment analysis、 タンパク間相互作用、転写因子結合モチーフ解析、文献情報などから上流解析を試みる。 興味ぶかいことにTMPRSS11Bの発現低下はほぼすべての症例や食道癌細胞株で見られる。近年次世代シークエンサーによる網羅的遺伝子変異解析から食道癌でも多くの遺伝子の変異が明らかになってきたが、TP53を除くと、高率な変異が見られるNRF2, NOTCHでも10%程度、そのほかは5%以下の変異頻度である。近年、血液検体などの試料からの遊離DNAにおける変異検出の研究(liquid biopsyなど)も盛んに行なわれているが、高頻度に起こる異常、heterogenityに影響されにくいということも重要な条件となる。TMPRSS11B DNAのメチル化を用いた検索も有用と思われ、同時に検討を重ねていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に使用額が生じた理由としては、初年度であることもありreal time PCRや免疫染色、細胞実験、メチル化解析実験などの条件設定が中心であったためと思われる。また、研究成果が学会発表・論文発表レベルまでは達していなかったことから、情報収集活動のみの旅費・学会参加費にとどめたことも影響したものと思われる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は検討症例数の増加が見込まれ、細胞機能解析、メチル化部位解析、Pathway解析など研究項目も増加する。また、結果を積極的に公表していく予定である。
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