研究実績の概要 |
RNA-sequenceによる網羅的転写産物解析により、食道扁平上皮癌組織で正常粘膜に比較して有意に発現低下する遺伝子として膜型セリンプロテアーゼTMPRSS11B (Transmembrane Protease Serine 11B)を同定した。同様の構造を呈するTMPRSS11 family (A, B, BNL, D, E, Fの6遺伝子)は4番染色体長腕 4q13.2にクラスターを形成するが、このすべてが食道癌組織で発現低下していた。最も発現低下の程度が強かったTMPRSS11Bについて解析を行った。64症例の食道癌切除検体のqRT-PCRによるTMPRSS11Bの発現解析では、食道癌組織では正常食道粘膜で有意に発現低下が認め、この発現低下は64症例中56例(87.5%)の高頻度に見られた。食道扁平上皮癌細胞株の検討でも10株(KYSE150, KYSE270, KYSE410, KYSE450, KYSE510, TE1, TE6, TE8, TE9, TE10)すべてでTMPRSS11B発現は検出されず、TMPRSS11Bの発現低下は食道癌発生初期に生じている異常であることが予測された。発現低下機序として、食道癌による網羅的遺伝子変異解析の既報告ではTMPRSS11b遺伝子変異の報告はない。5-Aza dC処理によるメチル化阻害実験は10細胞株すべてで発現回復が得られずTMPRSS11Bの不活化はメチル化以外の不活化機序によるものと思われた。また食道癌細胞における免疫染色、Western blotによりTMPRSS11Bのタンパクレベルでの発現低下も確認された。食道癌細胞株KYSE410へのTMPRSS11B遺伝子導入による過剰発現では、controlに比しリン酸化EGFR, Akt, リン酸化Aktの発現が抑制され、TMPRSS11B発現低下は一部でEGFR経路の活性化をもたらし、癌化に寄与している可能性を明らかにした。 以上より、食道扁平上皮癌では高頻度にTMPRSS11 subfamily 遺伝子の発現低下が見られ、TMPRSS11B発現低下は一部でEGFR経路の活性化をもたらし、癌化に寄与している可能性を明らかにした。
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