研究実績の概要 |
食道癌患者計35例の手術時摘出標本から採取した腫瘍組織と非腫瘍組織を-80℃で凍結保存し、組織を前処理し、キャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析器(CE-TOFMS)を用いてメタボローム測定を行い、詳細な検討を加えた。 患者背景は全例が扁平上皮癌であり、StageI:0例, StageII:8例, StageIII:22例, SrageIVa:5例。235種類の代謝産物が解析対象となり、詳細な検討の結果、絶対定量が可能な110種類の代謝産物を抽出した。 Principle component analysis (PCA)とhierarchical clustering analysis(HCA)では腫瘍組織と非腫瘍組織で明らかに代謝プロフィールの違いが認められ、さらに腫瘍組織ではheterogenousな代謝プロフィールを示した。99種類の代謝産物のうち、58種類の代謝産物で腫瘍組織と非腫瘍組織に濃度に差が認められた。Gln以外のアミノ酸レベルは腫瘍組織では非腫瘍組織に比べて高く、これはGlutaminolysisとautophagic protein degradation が腫瘍組織で亢進しているためと考えられた。ATP, CTP, GTP, UTPの濃度は腫瘍組織では非腫瘍組織に比べて低く、一方GMP濃度はより高かった。Lactateレベルは腫瘍組織では非腫瘍組織に比べて高く、一方citrateレベルは腫瘍組織では非腫瘍組織に比べて低かった。これらは腫瘍組織内では、低酸素な微小環境が存在し、Warburg effectと考えられた。 pT3-4腫瘍ではpT1-2腫瘍よりも濃度が高い代謝産物が7種類、低い代謝産物が21種類認められた。Malic acid とcitric acidはpT3-4腫瘍ではpT1-2腫瘍よりも濃度が低く、pT3-4腫瘍におけるTCA cycleのdown regulationを意味していると考えられた。 本研究により、食道癌において腫瘍組織と非腫瘍組織では代謝プロフィールが異なり、腫瘍増殖進展に関する新しい代謝産物のセットを同定できた。
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