研究課題
消化器固形癌は罹患率も高く、進行癌の症例や化学療法無効症例では、ほとんど有効な治療手段はなく、依然として予後不良の疾患である。分子標的薬の開発が近年では進行しているが、当該疾患の遺伝子異常は複雑であり、その標的経路の同定は容易ではない。そこで本研究では、アデノウイルスベクターを用いて、従来の治療とは異なる手法による細胞死の解析を実施する。食道がんではp53遺伝子異常が約半数の症例で見られることから、同遺伝子を発現するベクター(Ad-p53)、またp53分子の発現上昇をきたすE1B55kDa分子欠損ベクター(Ad-delE1B)、さらには当該疾患で発現上昇がみられる遺伝子の転写調節領域によって、同ウイルスのE1A領域発現を制御するベクター(Ad-MK、Ad-Sur)を用いて、ヒト食道がん細胞に感染させて細胞障害活性を検討した。その結果、Ad-p53、Ad-delE1B、Ad-MK、Ad-Surは細胞による差はあるものの、検討した9種類のヒト食道がん細胞で、p53遺伝子型によらず細胞障害活性を示した。また、green fluorescence protein遺伝子を発現するベクター(Ad-GFP)を用いて感染効率を検討すると、タイプ5型ウイルスの受容体であるcoxsackie adenovirus receptor(CAR)分子の発現が弱い細胞では、同効率は低かったが、一定レベル以上の細胞では、同効率とCAR発現レベルの間に相関はなかった。上記ベクターによる細胞障害活性も、同様に低CAR発現細胞では弱いが、あるレベル以上であれば、障害活性は細胞によって異なっていた。Ad-MKあるいはAd-Surのように増殖性ウイルスを感染させた細胞では、細胞死が誘導される前に、pRb蛋白質のセリン残基795の脱リン酸化が誘導されており、細胞周期がまず停止してくると想定された。
2: おおむね順調に進展している
各種ウイルスによる細胞障害活性に関してWST法を用いて、9種類のヒト食道がん細胞で検討できた。この時、対照として使用したbeta-galactosidase遺伝子を発現するベクターでは、ほとんど細胞障害活性が生じていなかった。E1A領域遺伝子の発現を制御する2つの転写調節領域(MK, midkine; Sur, survivin)の活性と、同領域を利用した増殖性ウイルスの細胞障害活性の間に強い相関はなく、Ad-MKとAd-Surの間にも大差はなかったことから、細胞死に対する感受性が、細胞障害活性を規定する可能性が考えられる。また、p53遺伝子型による細胞障害活性に差がないことから、当該ウイルスによる細胞死に関するシグナル経路を検討する必要がある。
ウイルス増殖に伴う細胞死について、その経路をp53遺伝子型による違いを踏まえて検討する。この解析には、アポトーシスやオートファジーの検討が含まれる。さらに、p53野生型の細胞に関して、同分子をMDM2分子との結合を阻害するnutlin-3aあるいはRITAを用いて、p53経路の活性化が細胞障害活性を誘導できるか、もしそれが可能であれば、同経路の活性化が増殖型ウイルスの細胞障害活性に与える影響を検討する。さらに、p53変異型の細胞については、Ad-p53感染によって、野生型p53分子を発現させ、この発現がウイルス増殖による細胞死にどのような効果をもたらすのかを検討する。これらの併用に関してはCalcuSynソフトを用いて検討する。さらに、遺伝子医薬との併用を考慮して、ビスフォスフォネート製剤に対する食道がん細胞の感受性を検討する。
各種ウイルスによる細胞障害活性の検討は、9種類のヒト食道がん細胞を対象に、かつ複数回実施する必要があり、このためにかなり時間を要した。そのため当初本年度に計画していた、p53分子のユビキチン化に作用する低分子化合物による細胞障害活性の検討が不十分となり、本年度の予定を消化できなかった。また、細胞死の経路を検討するためのウエスタンブロット法も検討できていなかた。しかし、ウイルスのよる細胞死誘導の条件が決定できたので、分子標的薬による抗腫瘍効果、細胞死経路の検討を集中して実施する。
次年度においては、各種分子標的薬を購入して、これらの薬剤の細胞障害活性に関して検討し、さらに遺伝子医薬との併用効果については、同様にWST法で検討し、CalcuSynソフトを用いて解析する。細胞死の検討として、アポトーシスやオートファジー経路の関与の有無を、薬剤あるいはウイルス処理した細胞を用いて、当該経路の各種分子の発現レベル、あるいは分子のcleavage等を指標に検討する。またビスフォスフォネート製剤を購入し、上記と同様に検討する。したがって、細胞培養関係の物品、各種蛋白質発現のために抗体等の一般生化学試薬等の物品購入に使用する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Cancer Gene Ther.
巻: 21 ページ: 31-37
doi:10.1038/cgt.2013.79
BMC Cancer
巻: 14 ページ: 713
http://www.biomedcentral.com/1471-2407/14/713