研究課題
本邦における食道癌はそれほど高頻度ではないが、局所進行症例に対しては有効な治療法はなく、結局best supportive careに移行することになり、また同疾患には高齢者が多いこともあって依然として予後不良である。近年分子標的薬による開発研究が行われているが、当該疾患の遺伝子異常は複雑であるため、標的分子の同定は容易ではない。最近東アジア人における同腫瘍の全ゲノム配列決定の結果が報告され、それによるとp53遺伝子とその下流の異常が約半数以上の症例で見られている。すなわち、このことはp53経路の正常化が、同疾患の第一の目標であることを意味している。本年度は、p53遺伝子変異を修正できる薬剤の有用性について、9種類のヒト食道癌(p53遺伝子型が正常型と変異型を含む)を対象に実施した。この変異型を正常型に回復させる代表的薬剤が、PRIMA-1およびCP-31398であり、HSP90阻害剤もその作用があることが知られている。そこでこれらの薬剤を使用して、上記薬剤の細胞傷害活性について検討してみると、p53遺伝子型による感受性の差が見出せなかった。一方その中にあってCP-31398だけが、p53分子の標的であるp21分子の発現を上昇させていた。そこでp53分子結合配列を有するp21遺伝子の転写調節領域を用いて、ルシフェラーゼ活性を検討すると、CP-31398による同活性の上昇は観察されなかった。また、同薬剤によって、食道癌細胞は細胞周期のG2/M期分画のみが増加した。このとき、典型的なp53分子の誘導に関わるDNA傷害薬剤では、p21分子の発現上昇を観察されなかった。以上の結果は、CP-31398の効果はp53経路の活性化に直接的に繋がるかどうか不明であるものの、従来のp53分子のシャペロン効果以外の作用を有することが考えられた。
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