当科における局所進行直腸癌に対する化学放射線療法では、奏効率が80%と高い腫瘍縮小効果が得られることを報告してきた。また、CD44v9は癌幹細胞マーカーであるが、腫瘍組織内のCD44v9は、放射線化学療法後の治療効果の低い腫瘍ほど、治療前に比べ、発現が高いことが判明した。したがって治療後におけるCD44v9発現が多い腫瘍は、治療抵抗性が高いことが示唆されており、再発リスクの高い群を知る有用なマーカーとなる可能性がある。平成28年度も引き続き症例の集積を行って、治療経過を検討している。 症例の集積は、プロトコールに従っておこなった。放射線療法として骨盤内に50glyを照射(2.0gly/回 週5日)、化学療法としてTS-1を80mg/m2を放射線照射日に投与した。平成28年度においては、新たに2症例の登録が得られ、現在まで合計21症例となった。 一方、新規診断法の開発として、多数の組織標本においてCD44v9の発現を効率よく染色可能にするため、組織アレイブロックの開発を行った。組織アレイブロックとは、スライドを作成した際に、1枚のプレパラート上に、多数の組織標本スポットが配置できるように作成したアレイブロックである。1回の免疫染色で、多数検体の染色が可能となるうえ、異なる組織を同一スライド上で同時に比較検討可能となる。具体的には、消化器癌及び肺、乳腺において、外科的切除を行った患者組織ブロックより癌病変と正常部分の位置より、組織を円筒状にくり抜き、パラフィンブロックに再配置した。1枚スライド上に12症例、計24スポットを配置することで、組織アレイブロックとした。 今後は、この組織アレイを用いて、集積した症例に対し、網羅的なCD44v9の染色を行い、高再発危険群として、癌幹細胞マーカーであるCD444v9の発現を調べ、再発に関する意義を検討する予定とし、最終報告とする予定である。
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