研究課題/領域番号 |
26462028
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
川上 和之 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (00293358)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大腸癌 / レトロポゾン |
研究実績の概要 |
LINE-1を高発現する大腸癌培養細胞、SW480およびCaco2をLINE-1 mRNAに対するsiRNAにより処理し、LINE-1の発現をノックダウンさせた。LINE-1発現の抑制により、いずれのがん細胞も増殖が抑制された。LINE-1 ORF1蛋白に対する多クローン抗体を作成し、その局在を確認したところ、stress granuleと呼ばれる細胞質内の顆粒状構造に局在を認め、siRNAによるノックダウンによりstress granuleへの局在も消失した。Stress granuleはmicro RNAの機能に関与することが示唆されているため、LINE-1ノックダウンによるmicro RNAの発現変化をマイクロアレーを用いて解析した。その結果、複数のmicro RNAに発現の変化を認め、その一部は癌遺伝子や癌抑制遺伝子の調節に関わることが報告されているものであった。 核酸アナログ逆転写阻害剤であるガンシクロビル、ラミブジンを用いて、大腸癌培養細胞の増殖抑制能を解析した。その結果、生理的濃度の核酸アナログ逆転写阻害剤ではがん細胞の増殖は抑制されなかった。高濃度の薬剤暴露では細胞増殖が抑制されたが、LINE-1高発現細胞であるSW480、Caco2とLINE-1低発現細胞であるHCT116、CaR-1との間に細胞増殖抑制の差異は認めなかった。この結果から比較的高濃度の核酸アナログ逆転写阻害剤で大腸がん細胞の増殖は抑制されるが、その効果はLINE-1 ORF2にコードされる逆転写酵素の機能と関係しないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LINE-1のノックダウンによりがん細胞の増殖が抑制されるメカニズムにmicro RNAの関与が新たに示唆され、このメカニズムを利用してレトロポゾンの制御による癌治療開発を開発できる可能性が浮上した。一方、核酸アナログ逆転写阻害剤の使用ではLINE-1の機能を介したがん細胞増殖抑制は達成できないと考えられた。LINE-1の機能亢進戦略による治療開発に関しては本年度中にまとまった結果は出なかったが、当初予定した研究内容は概ね達成できたため、今後の研究展開の見通しを含めて順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
LINE-1のノックダウンによりがん細胞の増殖が抑制されるメカニズムにmicro RNAの関与が新たに示唆されたことを受け、マイクロアレーで変化を認めたmicro RNAの機能をさらに解析する。増加を認めたmicro RNAはLINE-1と同時にノックダウン、あるいは、減少を認めたmicro RNAを補給することにより細胞増殖に与える影響を観察する。非核酸アナログ系の逆転写阻害剤を使用してがん細胞の増殖抑制が可能なのかをさらに検討する。LINE-1の機能亢進戦略に関しては、がん細胞の増殖抑制機能が既に報告されている脱メチル化剤やヒストンアセチル化阻害剤を使用して、これらの薬剤の効果にLINE-1の発現が介在しているのかを、LINE-1高発現細胞であるSW480、Caco2とLINE-1低発現細胞であるHCT116、CaR-1とを比較することにより解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
LINE-1の機能亢進戦略による治療開発に関して本年度中にまとまった結果は出なかったため、当初計画していたLINE-1の機能抑制と機能亢進を同時に行うことによる治療開発は今年度に着手できなかった。そのため当初予算の一部を使用せず、次年度の使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度中にLINE-1の機能亢進戦略による治療開発に関しての戦略を構築し、LINE-1の機能抑制と機能亢進を同時に行うことによる治療開発を開始する。特にLINE-1の機能を抑制することが報告されているAPOBEC蛋白の機能抑制を介した癌治療戦略に関して重点的に解析を進展させる。
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