研究課題
大腸癌の血液腫瘍マーカーとして保険収載されているCEA、CA19-9、p53抗体の全てが陰性である約40%の症例では、治療経過観察・再発チェックに有用な血液検査法がないため、頻繁な画像検査が必要である。本研究課題であるRalA分子は、新規の癌抗原であると同時に癌抑制遺伝子の一種でもあることから、発癌の比較的早期の段階から癌患者血清中に抗RalA-IgG抗体が出現する可能性があり、従来の検査法を補填する新規のバイオマーカーとして開発することが本研究の目的である。研究対象はあらかじめ倫理委員会承認を得ている臨床研究として治療前後の大腸癌患者から、文書により本人の了解を得てサンプリングした保存血液である。初年度である平成26年度は血清抗体測定系を開発し、健常者血清におけるELISA測定レベルの平均値+3SD をカットオフ値として陽性とした。大腸癌患者保存検体の解析を行った。平成26年度は保存血清サンプル合計289症例について評価を行った。その結果、血清RalA抗体陽性率は14%前後であった。陽性率はおおむねステージが進行すると高くなる傾向があった。組織の免疫染色を行うために、保管血清サンプルのある手術施行患者を選択して、切除標本から組織アレイを作成した。
2: おおむね順調に進展している
RalA cDNA の塩基配列をアミノ酸配列に変換し、MHCPred ウェブサイト(http://www.jenner.ac.uk/MHCPred/) を用いてクラスII抗原部位を検索し、その領域を含むペプチドを人工合成した。アミノ末端にビオチンを付加しておき、予めアビジンを固相化したプレートを用いて合成ペプチ ドを特異的に結合させ、洗浄後に血 清抗体と反応させ、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体を用いて血清抗体レベルを測定した。健常者血清に比べ患者血清の抗体レベルが有意に高いペプチドを選択した。作成したELISAキットの性能試験を実施し、健常者血清におけるELISA測定レベルの平均値+3SD をカットオフ値として、カットオフ値を上回った場合を陽性と判定した。東邦大学医療センター大森病院で入院・加療した大腸癌患者の血清を文書により本人の了解を得てスクリーニングに用いた。
血清中のRalA抗体単独での陽性率は期待したレベルより低いため、当初計画通りに複数の血清抗体マーカーを併用することで従来の抗体マーカーを凌駕する検査方法として開発する予定である。2年目はさらに症例数を増やして解析を進め、同時に切除標本の免疫染色との相関関係を検討する予定である。
同時に血清抗体を解析する手法を簡略化して、1回あたりのコストを削減した結果、1サンプルあたりの経費を節減することができた。臨床病理学的因子との相関関係の解析には、より多くのサンプルを解析することが重要であるため、計画していたサンプル数よりも多くのサンプルを次年度に解析することとした。そのため、若干の研究経費を次年度へ繰り越すこととした。
1年目研究費の残額を含めて、2年目は解析対象症例をさらに増やす予定である。同時に切除標本の免疫染色との関連性を検討する。同意取得すみの血清サンプルは、大腸癌患者400名程度をデータベース化している。また、文書により了解を得た健常者の血清をコントロールとして用いる。リンパ節転移あるいは再発形式などの詳細な臨床病理学的因子との相関関係を検討する予定である。また抗癌剤治療に対する治療効果との関連性についても解析する予定である。
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J Gastroenterol
巻: Epub ahead of print ページ: -
10.1007/s00535-015-1078-8