研究実績の概要 |
本研究はヒト大腸癌細胞株DLD1、HCT116からクローニングしたオキサリプラチン(以下OHP)耐性細胞株DLD/OHP1, DLD/OHP4, DLD/OHP5とHCT/OHP1, HCT/OHP3, HCT/OHP5を用いてオキサリプラチン耐性のメカニズムを解明することを目的とする。DLD1由来のOHP耐性細胞株はOHPのみに耐性で5FU,CPT-11には感受性を維持していたが、HCT116由来のOHP耐性株は5FU、CPT-11にも耐性であった。 HCT116の多剤耐性メカニズムを見つけるためにDLD1, DLD/OHP1, DLD/OHP4, DLD/OHP5 ,HCT116, HCT/OHP1, HCT/OHP3, HCT/OHP5のエクソーム解析とマイクロアレイ解析を行った。HCT由来OHP耐性株全てでCDS内に変異のある遺伝子は224個あった。その内マイクロアレイで有意に発現が上昇しているのはCABP1とSMAD7のみであった。 マイクロアレイ解析からHCT116由来OHP耐性クローン全てで遺伝子発現が有意に変化し、エクソーム解析でも有意な変異があるのは46遺伝子あった。文献報告からFKBP5、IRF9、SMAD7を候補として抽出した。まずHCT116、OHP耐性クローンでOHP未投与、OHP投与で、これらの遺伝子発現変化を定量的RT-PCRで確認した。FKBP5はクローンでの発現がHCT116と大差無かった。IRF9とSMAD7は耐性クローンでの発現が大きく増加し、マイクロアレイの結果と同様であった。 そこで次に臨床サンプルでの遺伝発現を検討した。抗癌剤耐性の評価が臨床例では困難なため、術前化学療法を行った症例と、行わなかった症例でIRF9、SMAD7の発現を定量的RT-PCRで比較した。SMAD7では術前化学療法を行った症例で、行っていない症例に比べて有意に発現が高くなっていたが、IRF9では有意差が無かった。IRF9、SMAD7ともに正常大腸粘膜よりも癌で発現が低下している症例が多く、今後の検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はヒト大腸癌細胞株DLD1、HCT116からクローニングしたオキサリプラチン(以下OHP)耐性細胞株DLD/OHP1, DLD/OHP4, DLD/OHP5とHCT/OHP1, HCT/OHP3, HCT/OHP5を用いてオキサリプラチン耐性のメカニズムを解明することを目的とする。 エクソーム解析とマイクロアレイ解析による耐性遺伝子の絞り込みから候補遺伝子がIRF9、SMAD7が見つかったことから予定通り研究は進んでいる。 これらの遺伝子は抗がん剤耐性に関する論文報告はあるものの、薬剤代謝に直接関与するものではない。マイクロアレイ解析の結果から感受性遺伝子を抽出した報告は多いが、臨床応用されているものはない。耐性クローンを複数用い、エクソーム解析とマイクロアレイ解析を併用した同様の研究は無く、候補遺伝子が分子マーカーとなる可能性が高いと考えている。
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