研究課題/領域番号 |
26462033
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
早田 浩明 千葉県がんセンター(研究所), 医療局・消化器外科, 主任医長 (90261940)
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研究分担者 |
下里 修 千葉県がんセンター(研究所), 研究所・発がん研究グループ, 上席研究員 (30344063)
上條 岳彦 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所), 臨床腫瘍研究所, 研究所長 (90262708)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大腸癌 / 癌性幹細胞 / CD133 / PTPRK |
研究実績の概要 |
近年、がんの難治性を説明しうる「癌幹細胞仮説」が提唱される中、申請者らは当該細胞を標的とした新規治療法の開発を目指している。申請者らは、癌幹細胞マーカーCD133がそのチロシンリン酸化を介して大腸癌細胞の腫瘍形成を亢進することを見いだした。さらに、申請者らの実験系において、受容体型チロシン脱リン酸化酵素(PTPRK)が脱リン酸化を介してCD133の機能を抑制する可能性が示唆された。そこで平成26年度は、大腸癌におけるCD133/PTPRK経路の臨床的意義の検討を中心に行った。 代表的なヒト大腸癌細胞株(Caco-2、HT-29、LoVo、SW480)のPTPRK発現レベルを検討した結果、全ての細胞株でその発現が確認された。特にHT-29のPTPRK発現レベルは非常に高かったが、その他の細胞株ではほぼ同程度であった。そこで、CD133陽性のLoVoのPTPRK発現レベルをRNA干渉法によって人為的に低下させた。その結果、当該細胞を軟寒天培地中あるいは低接着型培養プレート中で3次元的に培養すると増殖速度の亢進が観察された。さらに、外因性CD133を強制発現させ、同時にPTPRKをノックダウンしたSW480細胞でも、前述した3次元培養下での増殖速度の上昇が確認された。我々の先行研究から、CD133はチロシンリン酸化を介してPI3K・AKT経路を活性化する機能を持つことが示されている。そこで、外因性CD133の強制発現によって亢進したAKTリン酸化レベルがPTPRKのノックダウンによってさらに上昇するかどうかを検討した。その結果、我々が予想したように、PTPRKのノックダウンはCD133に依存的なAKTリン酸化を増強した。すなわち、PTPRKはCD133依存的な大腸癌細胞増殖を直接的に抑制している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の実績に示したように、ヒト大腸癌培養細胞を用いた解析については年度当初に申請した計画内容を実施することができ、ヒト大腸癌細胞の進展におけるCD133とPTPRKの役割が明らかになりつつある。 したがって、現在の達成度は概ね順調であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1.大腸癌臨床検体を用いたPTPRK遺伝子のゲノム・エピゲノム解析(担当:早田、下里):前年度に引き続き、大腸癌臨床検体を用いてPTPRK遺伝子発現のゲノム・エピゲノム解析を行う。具体的には、PTPRK陽性腫瘍細胞、陰性腫瘍細胞および近傍正常組織を前年度と同様の手法で採取する。当センターで独自に確立したcDNAチップおよびアレイCGHなどを用いて、miRNAやlincRNAおよび幹細胞関連遺伝子群などを網羅的なゲノム・エピゲノム解析法で検討する。 2.大腸癌おけるPTPRKプロモーターと転写調節因子の同定(担当:早田、下里):PTPRK遺伝子の発現低下の分子機序を解析する。具体的には、PTPRK転写制御における責任DNA領域を単離し、そこに結合する転写制御因子(TF-Xとする)を同定する。さらに、ヒト大腸癌臨床検体でのPTPRK遺伝子とTF-X遺伝子の発現をリアルタイムPCRやウェスタンブロット法で定量し、両者の発現量の相関が、大腸癌患者の予後を予測できるかどうかをKaplan-Meier解析で検討する。 3.リン酸化プロテオーム解析によるPTPRK特異的基質タンパク質の探索(担当:早田、下里、上條):癌幹細胞におけるPTPRKの標的分子を探索する。具体的には、Tet発現誘導型shRNAをCD133陽性の大腸癌細胞株に安定導入する。Tet添加によってPTPRKをノックダウンした細胞のチロシンリン酸化タンパク質を、2次元電気泳動とウェスタンブロット法によって検出する。 4.癌性幹細胞性の制御におけるCD133/PTPRK経路の機能解析(担当:早田、下里):PTPRKによるCD133機能抑制効果が治療に応用できるかどうかを検討する。具体的には、SW480/CD133細胞をヌードマウス皮下に接種して、カチオン脂質を介したタンパク質導入試薬を利用して、PTPRKの細胞内サブユニットに含まれるホスファターゼドメイン領域(PTPRK-P)分子を皮下腫瘍内に投与して、抗腫瘍効果が得られるかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の成果報告に関する支出は国内での学会参加のみであったため、「旅費」と「その他」の支出額が当初の見積額よりも少なかった。そこで、余剰分は次年度に使用する予定であった試薬類を購入したが、試薬の消費期限の問題もあるので、若干生じた残金を次年度使用とした。
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次年度使用額の使用計画 |
研究費は、学会参加や論文投稿などの成果発表に関する費用を除いた全てを試薬などの購入に使用する。なお、1式が50万円を上回る物品を購入する予定はない。 本研究には代表者を含めて3名の参画がある。エフォートに応じて、研究代表者が研究費の6割を、2名の分担研究者が4割を使用する予定である。
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