研究課題/領域番号 |
26462046
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
生田 義明 熊本大学, 医学部附属病院, 非常勤診療医師 (70452894)
|
研究分担者 |
近本 亮 熊本大学, 医学部附属病院, 准教授 (10419640)
馬場 秀夫 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (20240905)
林 洋光 熊本大学, 医学部附属病院, 非常勤診療医師 (80625773)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 肝血流低下 / 肝萎縮 / 肝肥大 / TSP-1 / 増殖 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
門脈血流低下による肝萎縮において障害を受けた肝類洞内皮細胞からTSP-1分泌が誘導され、TGF-β-Smadシグナルを活性化することで肝萎縮が誘導されていると予想される。野生型マウス(C57BL/6J)を用いて左右門脈のうち右門脈を結紮して部分的な肝萎縮を誘導した。門脈の結紮を行った肝右葉を結紮肝、結紮を行わなかった肝左葉を非結紮肝とした。門脈結紮したマウスは術後6時間、24時間、48時間、72時間後にsacrificeし、結紮肝および非結紮肝を摘出した。各タイミングで5匹の門脈結紮マウスを作成した。 摘出した肝臓は緩衝ホルマリン液に固定し、ヘマトキシリン・エオジン染色、抗PCNA抗体による免疫染色、TUNEL染色を行った。 結紮肝(萎縮肝)では術後6時間以降に類洞の拡張を認め、48時間以降で肝細胞核におけるヘマトキシリンの染色性が低下した。また、PCNAの発現は結紮後6時間のみで上昇した。TUNEL染色は術後6時間後核の染色が増加した。また、術後48時間で肝細胞がPAS染色陽性となった。 一方、非結紮肝(肥大肝)ではPCNAの発現は結紮後6時間および24時間後に2峰性の上昇を呈した。TUNEL染色では核の染色は認めなかった。また細胞質はPAS染色陰性であった。 抗TSP-1抗体および抗pSmad2抗体による免疫染色にて結紮肝では術後6時間で肝類洞内皮細胞に発現が上昇し、それ以降は肝細胞細胞質でのTSP-1の発現は上昇し、核でのpSmad2の発現も上昇した。非結紮肝では肝細胞細胞質内でのTSP-1の発現、核でのpSmad2の発現を認めなかった。 すなわち、門脈血流の低下は肝細胞におけるTSP-1の発現上昇を促し、TGF-β/Smad2シグナルを介して肝細胞の増殖抑制とアポトーシスが誘導されていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
マウスの門脈の結紮にはヒトに対する血管結紮用のクリップ(small SLS clip)を用いた。マウスの門脈は微細であり、さらに微細な肝動脈の結紮を伴うことなく、結紮肝の壊死を来さないような正確な右門脈結紮手技を確立するのに時間を要した。また、門脈結紮手技が確立するまで、一定の実験結果が得られなかった。上記の理由に加え、多数のtime pointでの結紮および非結紮肝組織の採取が必要であり、必要なサンプルを揃えるのに時間を要した。 右門膜結紮により得られた結紮肝(萎縮肝)、非結紮肝(肥大肝)について、PCNAの免疫染色、TUNEL染色を行い、術後の肝細胞再生および肝細胞アポトーシスについて時系列的変化を明らかにした。結紮肝ではPCNAは術後6時間のみで誘導されるのに対し、ヒッ結紮肝では術後6時間および24時間で誘導され、肝肥大においては術後24時での増殖能の増加が見られることがわかった。以上より、結紮肝(萎縮肝)では肝細胞の増殖能の低下とアポトーシスの亢進、非結紮肝(肥大肝)では細胞増殖能の亢進とアポトーシスの抑制が確認された。 また、TSP-1およびpSmad2の免疫染色によって、結紮肝ではTSP-1の発現が肝類洞内皮細胞で急激に上昇し、続いて肝細胞内で発現が上昇した。一方で、非結紮肝では肝類洞内皮細胞に一過性にTSP—1が誘導されるのみで、その後の発現は見られなかった。 以上の結果から、門脈血流低下によるTSP-1が肝細胞再生の抑制とアポトーシス亢進による肝萎縮のメカニズムに関与していることを確認した。非結紮肝では逆にTSP-1の発現は低下し、肝細胞再生の促進とアポトーシス抑制が見られた。
|
今後の研究の推進方策 |
今までの研究にて門脈の結紮により肝細胞におけるTSP-1誘導を介して、細胞増殖が抑制され、アポトーシスが誘導されていることを示した。ヒトでも同様の機序が門脈血流低下に関与している可能性がある。肝腫瘍の切除術においては、術前に腫瘍を有する肝葉の門脈を塞栓させることで切除予定肝を萎縮させ、残肝を肥大させるPVE(portal vein embolization)が行われる。当科ではPVE後の肝切除を行ったパラフィン包埋標本を有しているが、予備実験にて萎縮肝ではTSP—1の発現が上昇し、肥大肝ではTSP-1の発現が見られないことを確認している。したがって、マウスモデルで確認したTSP-1による機序をヒトでも明らかにできると考えられる。また、ヒトに対するPVE後の肝腫瘍切除の際に採取した背景肝の凍結組織を当科は保有しており、Western blottingによるTSP-1発現の解析、real time PCR法を用いたmRNAの解析にてTSP—1および細胞増殖因子の発現を解析する。また、cDNA microarrayを用いてPVE後の肝血流低下によるTSP-1およびその他の遺伝子の発現について検討する。 また、TSP-1 inhibitory peptideであるLSKL peptideを門脈結紮モデルマウスに投与することで、門脈血流低下によるTSP-1を介した肝萎縮機構についてのメカニズムをさらに明らかに出来ると考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
医局内保管の消耗品を使用できたため。また、研究が遅れており、当初予定の実験を行うことが出来なかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究の遅れが出た部分については計画の修正を行い、実験を進める予定である。研究費は各実験にかかる消耗品購入費及び、得られた結果を管理する事務補佐員の給与に充てたいと考える。
|