研究課題/領域番号 |
26462050
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
林 道廣 大阪医科大学, 医学部, 教授 (90314179)
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研究分担者 |
高井 真司 大阪医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80288703)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 劇症肝炎 / キマーゼ / マトリックスメタロプロテアーゼ / ハムスター / リポポリサッカライド / D-ガラクトサミン / 酸化ストレス / 肝細胞壊死 |
研究実績の概要 |
劇症肝炎におけるキマーゼ阻害薬の効果を検討するため、ハムスターにリポポリサッカライド(Escherichia coli, 0111:B4)の160 µg/kgとD-ガラクトサミンの400 mg/kgを腹腔内に投与することで劇症肝炎モデルを作製し、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後の血液および肝臓組織を解析した。 リポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後4時間の時点で血液中のAST活性とALT活性は投与前と差を認めなかったが、24時間後の時点では共に著明に増加した。肝臓組織抽出液中のキマーゼ活性およびキマーゼにより活性化されるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-9活性は、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後1時間の時点より上昇し、3時間の時点で最高値を示した。一方、肝臓組織抽出液中のTumor necrosis factor (TNF)-αは、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後1時間の時点で著明に増加し、その後、3時間以降で減少していた。肝臓組織中の酸化ストレスの指標として測定したマロンジアルデヒドは、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後4時間の時点まで投与前と差がなかったが、24時間の時点では著明に増加した。キマーゼ関連因子であるMMP-9の遺伝子発現レベルをRT-PCRにて解析した結果、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後1時間より有意に増加していた。肝臓組織切片を用いた組織解析では、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後4時間までは明確な肝細胞の壊死や肥満細胞の集積を認めなかったが、24時間の時点では著明な肝細胞壊死と肥満細胞の有意な集積を認めた。 これらの結果より、リポポリサッカライドの160 µg/kgとD-ガラクトサミンの400 mg/kgを腹腔内投与することにより、劇症肝炎モデルが形成されることが確認できた。また、キマーゼに関連する因子であるMMP-9活性およびMMP-9の遺伝子発現がキマーゼの動態変化と関連することが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は劇症肝炎のモデルをハムスターで作製し、劇症肝炎誘発後のキマーゼおよびその関連因子を解析する方法を確立することを目標とした。ハムスターを用いた劇症肝炎モデルの作製には、リポポリサッカライドの160 µg/kgとD-ガラクトサミンの400 mg/kgを腹腔内に投与して作製した。本モデルでは、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミンを投与したのち4時間の時点では血液中のAST活性とALT活性は投与前と差を認めなかったが、24時間後には共に著明に増加することを確認できた。このAST活性とALT活性はラット用の試薬にて解析することが可能であった。血液中の炎症マーカーのTNF-αは、市販のヒトTNF-α測定用のELISAキットにて測定できたため、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミンを投与した1時間後に著明に増加することを確認できた。肝臓組織抽出液を用いたキマーゼ活性の測定方法は、基質にアンジオテンシンⅠを用いることで定量でき、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミンを投与した1時間後より有意に増加してくることが確認できた。また、肝臓組織中のキマーゼ関連因子であるMMP-9活性は、市販のマウス用MMP-9活性測定キットにて測定できることが判明し、キマーゼ活性と同様にリポポリサッカライドとD-ガラクトサミンを投与した1時間後より有意に増加してくることが確認できた。肝細胞の壊死程度はHE染色した肝臓組織切片を用いて解析し、キマーゼの発現細胞である肥満細胞はアザン染色した肝臓組織切片を用いて解析した。その結果、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミンを投与した24時間の時点で明確な肝細胞壊死と肥満細胞の集積を確認できた。 今年度の目標であったハムスター劇症肝炎モデルにおける経時的なキマーゼおよびキマーゼ関連因子の動態解析は、概ね達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、マハムスター劇症肝炎モデルを用いて各パラメーターに対するキマーゼ阻害薬とプラセボの結果を比較検討し、劇症肝炎におけるキマーゼの病態生理学的役割を解明する予定である。 キマーゼ阻害薬による評価として、まず、予防効果で解析する予定である。方法は、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミンを投与する前よりキマーゼ阻害薬であるTY-51469の10 mg/kgまたは30 mg/kgを投与し、これら濃度のキマーゼ阻害薬による影響を解析する。解析項目は、血液中の解析項目として、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後1、2、4、24時間の時点で採血する。AST活性とALT活性を測定し、TNF-αは市販のヒトELISAキットにて測定する。そして、各点におけるキマーゼ阻害薬とプラセボを比較検討する。肝臓組織抽出液を用いて、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後1、2、4、24時間のキマーゼ活性およびMMP-9活性を測定し、各点におけるキマーゼ阻害薬とプラセボを比較検討する。肝臓組織中のTNF-αも同様にリポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後1、2、4、24時間で測定し、キマーゼ阻害薬とプラセボを比較検討する。肝臓組織の解析は、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミン投与後24時間の時点で肝臓を摘出し、HE染色した組織切片より肝細胞の壊死程度を解析し、キマーゼ阻害薬とプラセボで比較検討する。また、肥満細胞の単位面積あたりの細胞数を定量し、肥満細胞集積に対するキマーゼ阻害薬の影響を解析する。 ハムスターにリポポリサッカライドとD-ガラクトサミンを投与して作製した劇症肝炎モデルに対するキマーゼ阻害薬の前投与による影響を継時的に解析したのち、リポポリサッカライドとD-ガラクトサミンを投与した後、つまり、劇症肝炎発症後の病態に対するキマーゼ阻害薬による影響を解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
リポポリサッカライドとD-ガラクトサミンを投与してハムスターの劇症肝炎モデルを作製したが、想定していたよりも実験の再現性が高かったため、両者の経時的な解析を行うのに少ない動物数で検討できた。ハムスター用のTNF-α測定ELISAキットは中国の企業でしか発売していなかったため、中国よりハムスター用のTNF-α測定ELISAキットを購入して測定する予定であった。しかし、実際にハムスターの組織中TNF-αを測定したところ、測定できないことが判明、その一方、ヒト用のELISAキットで測定できることが判明し、本研究ではハムスターの定量をヒト用ELISAキットで測定することにした。ヒト用のTNF-α測定ELISAキットは、中国から購入予定であったハムスター用よりも安かったため、低コストでTNF-αを解析することができた。動物購入費の削減に加えてTNF-α測定ELISAキットの購入費の削減があったため、初年度の費用が圧縮され、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用分については、炎症関連因子としてTNF-αのみを解析してきたが、インターロイキン-1およびインターロイキン-6などを解析項目に追加したいと考えており、これらの測定費に用いる予定である。また、これらの遺伝子発現は、TaqManプローブを用いたRT-PCRで行いたいと考えており、それらのプライマーおよびプローブ作製の購入費用、そして、ウェスタンブロットのよる蛋白量も測定可能であれば測定する予定にしており、それらの費用にも当てる予定である。
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