研究実績の概要 |
本研究では、胸部及び胸腹部下行大動脈手術後の重篤な合併症として脊髄虚血による対麻痺の薬剤投与による予防策について動物実験により検討することを目的とした。NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体拮抗薬であるメマンチンを前投与しウサギ腹部大動脈遮断による脊髄虚血操作における脊髄保護効果を検証した。コントロール(n=5)について脊髄虚血誘導時の血行動態は、上腕動脈圧・右腎動脈圧・中心静脈圧・脈拍数・心拍出量・Cardio-Ankle Vascular Index(CAVI、動脈硬化指標)をモニターした。次に、メマンチンを粉砕し生食に溶解(180mg/NS7)、7日間溶出型osmotic pump(alzet OSMOTIC PUMP MODEL2ML1, DURECT Corp., CA, USA)に納め、ウサギ背部皮下に移植した(n=3)。1週間後に脊髄虚血実験を施行。コントロールと同様のparameterについて腹部大動脈遮断操作前後の変化を計測。終了後はペントバルビタール+KCL投与により犠牲死を得、採血(血清保存)及び脊髄組織摘出、osmotic pumpを回収した。脊髄組織は10%ホルマリン固定の上HE染色を行った。 結果:メマンチン前処置有無に関わらず腹部大動脈遮断に際し体血圧上昇及び血管弾性の増加を認め、遮断解除後は体血圧の速やかな低下及び速やかな血管硬化の増強を認めた。HE染色による脊髄組織の変化は、メマンチン前処置の有無に関わらず明らかなapoptosisなどの不可逆的な組織変化像は認めなかった。血清メマンチン濃度の測定は測定環境が整わず検査・確認することが不可能であった。 以上の結果より、メマンチン皮下投与による前処置を行ったウサギと行わなかったウサギで明らかな虚血変化に対する応答の循環導体的な差異は認めず脊髄の質的変化も来たさなかったことが確認された。
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