研究課題
腹部大動脈瘤(AAA)は大動脈瘤の中でも最も頻度が高く、このAAAは破裂した場合は非常に高い死亡率に達する極めて重篤な疾患であるが、AAAの形成・進展・破裂に関するメカニズムについてはあまり研究が進んでいない。最近の我々の研究から、このAAAの病変部に高度なB細胞の浸潤、集簇が認められ、その形成・進展メカニズムにB細胞の関与が示唆されている。一方、B細胞にはB1細胞、B2細胞、制御性(regulatory) B細胞、IRA(innate response activator)-B細胞等の幾つかのサブセットの存在が知られている。最近、これらのサブセットの中で、IRA-B細胞が動脈硬化症の進行にGM-CFSの分泌を介して関与することが報告され注目を集めているが、AAAの形成に対する報告は殆どなされていない。このような背景から、本研究ではAAAの形成とIRA-B細胞の関連性を調べることを目的とした。その結果、ヒトAAA病変において、IRA-B細胞のマーカーと考えられている分子に対する抗体に陽性な細胞が認められ、AAA病変部にはIRA-B 細胞様の細胞が存在すると考えられた。また、AAAの外膜から中膜においてAAA形成に伴うGM-CFSとGM-CSF受容体の発現上昇が観察された。そしてGM-CFS受容体の発現とマクロファージ(CD68)や好中球(Neutrophil elastase)のマーカーとの一致が認められ、GM-CSFが作用する細胞としてマクロファージや好中球が想定された。以上の結果から、IRA-B 細胞様の細胞がGM-CSF系を介してマクロファージや好中球を制御し、AAAの形成に関与している可能性が考えられた。
3: やや遅れている
最近の報告から、動脈硬化症のような血管疾患にはIRA-B細胞が重要であるということが報告され、本研究においても、IRA-B細胞やGM-CSF/GM-CSF受容体についての検討を行なうことが非常に重要であると考えられた。このため、本研究課題の若干の進行の遅れと引き換えに重要な知見が得られると判断し、先述の研究実績に記載したような研究を行なった次第である。
先述のように、1年目の研究によりAAAの形成・進展においてIRA-B細胞やGM-CSF/GM-CSF受容体が重要な役割を示していることが示唆された。今後は、これらの細胞、分子に焦点を当て、研究を進めるものとする。
本年度は、先述したように直近の海外からの報告を参考にした結果、腹部大動脈瘤の形成・進展におけるIRA-B細胞やGM-CSF/GM-CSF受容体に関する検討を行なう必要が生じた。このため、初年度はこれらの細胞・分子の検討を行なったため、次年度使用額が生じた。
次年度としては、本年度の研究から腹部大動脈瘤の形成・進展に対してその関与が示唆された、IRA-B細胞やGM-CSF/GM-CSF受容体についての研究をより進めていく予定である。このため本年度の未使用額(次年度使用額)は、これらの研究に充てる予定である。なお、使用用途としては、主に研究における消耗品や研究発表の旅費、謝金等に充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) 備考 (2件)
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