研究課題
腹部大動脈瘤(AAA)は破裂した場合は非常に高い死亡率に達する極めて重篤な疾患であるが、このAAAの形成・進展・破裂のメカニズムは研究が進んでいない。現在までの研究から、AAAの形成・進展には血管壁に浸潤した炎症細胞(免疫細胞)とそこから分泌されるサイトカインやプロテアーゼが重要な役割を果たしていると考えられている。一方で、最近の研究から、血管周囲脂肪組織(PAT)とそこから分泌されるアディポカインが動脈硬化症の進行に関与していることが報告され、AAAにおいてもその関与が疑われている。よって本研究では、AAAの形成・進展とPAT-アディポカイン-炎症細胞系との関連性について、ヒト病理組織を用いて検討を行った。正常大動脈とAAA病変において豊富なPATが確認され、それらにおいてアディポネクチン(ADP)やレプチン(LEP)のようなアディポカインの発現が認められた。またそれぞれの受容体は、AAAにおける浸潤細胞に発現が認められたが、興味深いことにアディポネクチン受容体1、2(ADP-R1, 2)は正常大動脈の脂肪細胞にも多数の発現が観察され、それら発現はAAAにおいて減少していた。一方、レプチン受容体(LEP-R)の発現についてはAAAにおいて上昇していた。受容体の発現細胞については、ADP-R1は一部がマクロファージに発現が認められ、LEP-Rはその多くが肥満細胞で発現が確認された。現在までに肥満細胞におけるレプチン受容体の発現に関する報告はなされていない。そこで、この肥満細胞、特にLEP-Rを発現している肥満細胞数について調べたところ、AAAの病変部において有意に高い値となった。そしてこれらLEP-R陽性の肥満細胞においては、LEP-Rの細胞内シグナルであるリン酸化STAT3やFosタンパクの発現が認められ、これらの肥満細胞は活性化状態にあることが疑われた。
3: やや遅れている
本研究では腹部大動脈瘤の形成・進展におけるB細胞の関与メカニズムの解明を大きなテーマとしている。一昨年度の研究から、B細胞のサブセットの一つであるIRA-B細胞様細胞の関与が示唆され、さらに昨年度は、脂肪細胞と脂肪細胞が分泌するアディポカインの関与が示唆された。しかしながら、その後の本研究で、この因子がIRA-B細胞様細胞を直接的に制御している可能性は低い結果となり、現在はIRA-B細胞様細胞を間接的に制御する可能性を検討しているところである。さらに、多少研究計画を変更し、この腹部大動脈瘤の形成・進展に対するアディポカインの直接的な制御に関して研究を行っているため、当初に進行状況よりやや遅れているものとした。
本年度の研究において、新たに脂肪細胞とその脂肪細胞から分泌されるサイトカイン(アディポサイトカイン)が腹部大動脈瘤の形成・進展に関与することが示唆された。このような結果をもとに、今後は脂肪細胞によるB細胞(IRA-B細胞様細胞)の制御について検討しつつ、腹部大動脈瘤におけるその系の関与をさらに追及する予定である。これとともに、脂肪細胞によるアディポカインを介した様々な作用機序についても研究を進める予定である。
「現在までの達成度」でも述べたように、本年度の研究において新たに脂肪細胞とその脂肪細胞から分泌されるサイトカイン(アディポカイン)が腹部大動脈瘤の形成・進展に関与することが示唆された。このような結果をもとに、今後は研究の方針を変更し、主に「脂肪細胞によるアディポカインを介した作用機序」について検討し、腹部大動脈瘤におけるその系の関与をさらに追及する必要があると共同研究者間の話し合いで決まった。このようなことから、未使用の研究費を上述の研究に充てるために、次年度使用額が生じた次第である。
次年度は上述の「脂肪細胞とその脂肪細胞から分泌されるサイトカイン(アディポカイン)が腹部大動脈瘤の形成・進展に関与」に関する研究も進めるため、その研究費に次年度使用額を充てるものとし、さらには論文の投稿費やそれにかかわる諸経費、追加実験が必要となった場合の研究費、学会等での情報の収集に必要となる出張費などにも充てる計画である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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