研究実績の概要 |
1)動物(白兎)を用いたAKA結紮対麻痺モデルの作成と側副血行路形成機序の解明に関して、1)腎動脈直下ー大動脈分岐部遮断モデル、2)腎動脈下2cmー大動脈分岐部遮断モデルによる比較検討を行った。これによると、腎動脈直下遮断モデルにおける対麻痺の発生率は良好(Tarlov score (TS), 1.1+/-1.4)であったが、腎動脈下2cmでの遮断モデルでは40%(TS, 2.9+/-0.9)程度となった。この結果はMEPの低下とほぼ一致し、遮断直後のMEP の低下と対麻痺の発生に関連を認めた。腎動脈レベルの腰動脈が重要であると考え、これらを再度遮断する実験を行ったが、それでは対麻痺は発生しなかった。対麻痺発生には、腎動脈周辺の遮断だけではなく腹部大動脈すべての側副血行路の遮断が必要であることが示された。MEPが低下しない場合の対麻痺例はなく、MEPが低下せずにかつ軽度下肢運動不良例(Tarlov score 2-3)に対して経時的観察を行ったが、遅発性対麻痺を発症する例を認めず、遅発性対麻痺モデルを作成するには至らなかった。 2)胸部下行、胸腹部大動脈手術時の遅発性対麻痺発症機序の解明と予測法の開発に関して検討を行った。2011年から2016年に該当するステントグラフト治療は245例あり、うち11例(4.5%)に対麻痺を認めた。術前よりMEPを69例に装着し、うち7例(10.1%)に対麻痺を認めた。対麻痺の発生を予測してMEPを装着した群で有意に対麻痺の発生率が高かった(11/245 vs 7/69, p=0.0306)。MEP低下のリスク因子の検討では、多変量解析により術中の最低平均血圧が55mmHg以下とTh9以下のステントグラフトの留置が独立した危険因子であった。MEPの低下自体が術後の遅発性対麻痺を予測しなかった。
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