研究課題
外因性ヒストンを直接静脈内に投与することで、肺障害を生じる動物モデル(ラット)を確立した。ヒストン関連肺障害を生じたドナー肺を摘出し、同系ラットに移植し移植後肺障害を特に血管内皮障害、微小循環障害の観点から検討した。特にドナー肺におけるヒストン関連障害について炎症マーカー、低酸素誘導マーカー(虚血、血栓形成による組織潅流障害)を中心に測定し、ヒストン投与量依存性に障害が増強することが確認できた。本研究では微小循環維持に重要な因子であるトロンボモジュリンを投与することで、ヒストン関連血管内皮障害、及びフィブリン分解抑制を軽減できるか検討した。ラットでの片肺移植と、移植後グラフトの評価方法(分肺コンプライアンス測定、移植グラフト肺静脈からの採血によるガス交換能測定)を確立した。虚血再灌流障害(ischemia-reperfusion injury)の程度は、先行するヒストン関連血管内皮障害に影響されることを、移植モデルで検討した。実際にはドナーに投与したヒストンによる肺障害により、移植後早期(1時間程度)で非常に強い再潅流障害とそれに引き続く血管抵抗増大が起こることを観察し得た。現在高用量リコンビナントトロンボモジュリンをドナーに使用し、ヒストン関連肺障害の軽減にどのような機序で働くのかを詳細に検討中である。具体的にはヒトに投与する3倍量換算のトロンボモジュリン投与により、炎症反応軽減は得られない(これは齧歯類で使用した場合ヒトとの代謝の違いにより説明される)一方で、低酸素障害時に発現する低マーカー(HIF)は低下することを確認した。これは血栓溶解、血栓形成の抑制機序の結果生じている現象と解釈している。今後ドナーにおける使用方法、また移植後レシピエントに投与するなど、タイミングも含めてさらに検討する予定である。