研究課題/領域番号 |
26462124
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長山 和弘 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (00647935)
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研究分担者 |
中島 淳 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90188954)
村川 知弘 東京大学, 医学部附属病院, 登録研究員 (50359626)
安樂 真樹 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (70598557)
似鳥 純一 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40424486)
北野 健太郎 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70647073) [辞退]
垣見 和宏 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (80273358)
松下 博和 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (80597782)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肺癌 / 遺伝子変異 / neoantigen / パッセンジャー変異 |
研究実績の概要 |
網羅的固有抗原(neoantigen)同定システムの構築にあたり、平成27年度は、既存の癌遺伝子変異オンラインデータベース、および当院で手術を行った肺癌患者15例のシーケンスデータを利用し、2種類のneoantigen予測パイプラインを構築、検証した。 はじめに、患者間で共有される頻度の高い遺伝子変異を標的とした「off-the-shelf型」neoantigen候補を予測する、簡便で汎用性の高いパイプラインを構築した。そのためにまず既存のデータベースを用いて、肺癌において頻度の高い遺伝子変異を抽出した。その遺伝子変異に由来する変異ペプチドが、患者MHCと結合能が高ければ、患者にとってneoantigenとなり得る。そこで、15例の患者のHLAを用いて、MHC結合能予測プログラムを用いてスクリーニングを行い、各患者の「off-the-shelf型」neoantigen候補を予測した。 続いて、この「off-the-shelf型」neoantigen候補が、各患者に対する癌ワクチンの標的として有用かどうか検証した。肺癌患者15例のシーケンスデータから腫瘍特異的遺伝子変異を同定し、同様にMHC結合能予測プログラムを用いてスクリーニングを行い、各患者の実際のneoantigen候補を予測した。 最終的に2種類のパイプラインを比較したところ、一致したneoantigen候補は非常にわずかであり、既存のデータベースを利用した「off-the-shelf型」neoantigen予測パイプラインは簡便だが汎用性は高くないことが確認された。Neoantigenを標的とした個別化がんワクチン開発において、個々の患者におけるシーケンスデータを活用するパイプラインの方が有用であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
はじめに、既存のオンラインデータベースCatalogue of Somatic Mutations in Cancer (COSMIC)を利用して「off-the-shelf型」neoantigenを同定するパイプラインを構築した。次に、肺癌患者15例における腫瘍組織および正常肺から得られたシーケンスデータを用いて、個々の患者における実際のneoantigen候補を同定するパイプラインを構築した。 この二つのパイプラインを比較・検証した。COSMICから抽出された仮想neoantigen 132個のうち、シーケンスデータから同定された1875個のneoantigen候補と一致したものは、4個(3症例)のみであった。各患者におけるneoantigenの大半は、患者間で共有される頻度の高いドライバー変異由来でなく、個々の患者で異なるパッセンジャー変異に由来することが、この一致率の低さの要因だった。個々の患者におけるシーケンスデータを活用し、パッセンジャー変異も含めて標的neoantigenを同定するパイプラインの方が有用であることが確認された。 得られた成果を世界肺癌学会誌Journal of Thoracic Oncologyに発表した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、シーケンスデータの解析のために様々な変異解析ソフトウェアが開発されており、各ソフトウェアによって同定される変異が若干異なる。それぞれのソフトウェアの特性を理解した上で、複数のソフトウェアをいかにして組み合わせるのか、探索中である。具体的には、whole-exome sequencing (WES)データに対して変異をコールするソフトウェアとして、現在使用中のVarScan, MuTectに加えてLofreqの利用を開始し、すでに検証中である。また、ミスセンス変異のみでなく、insertion/deletion に由来するneoantigenの解析にも着手している。フレームシフトに由来する変異タンパクの配列はミスセンス変異に由来する変異タンパクよりも多様であり、解析が難しい。一方で、wild typeと大幅に配列の異なるタンパクを作り得るため、免疫の標的となるか評価することは非常に重要である。 WESデータから同定されたneoantigen候補の中には多くの偽陽性も含まれる。RNA-seqデータを利用して変異mRNAの発現量を抽出し、偽陽性を減らすことができるか検証する。具体的には、まずRNA-seqのデータからCufflinksなどの発現解析ソフトウェアを用いて発現のある遺伝子に絞りこむ。さらに、RNA-seqにおける変異リードが正常リードに対して何%以上の頻度で検出されたものについては変異の発現が確からしいか、cut-offを求める。そのために、肺癌から調整したRNA由来のcDNAに対して変異部位を含むようにPCRで増幅し、キャピラリーシーケンサーを用いたSanger sequencingおよび次世代シーケンサーを用いたamplicon sequenceを行い、変異mRNAの存在を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Frameshiftのエピトープ解析パイプラインおよび次世代シーケンサーを用いたamplicon sequence解析を行うパイプラインの調整に時間を要している。サンプル調整に必要な物品の購入を次年度に回す。
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次年度使用額の使用計画 |
解析パイプラインが整い次第、サンプル調整し追加のシーケンスを実施する。
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