活性化EGFRとGEP100が結合することによるArf6経路の活性化が癌の浸潤転移能の亢進経路であることを受けて、さらにこの経路の活性化が亢進する機序の解明をすすめた。GEP100のPHドメインが結合する、活性化EGFRのC末端付近のリン酸化チロシン部位に結合することが知られている分子を発現させたところ、Grb2アダプター分子過剰発現により、EGFRとGEP100の結合が増強、その下流であるArf6活性化がみられた。この経路の活性化により、肺癌細胞株において、EMT活性化(E-cadherin発現減少)やin vitro浸潤能の亢進が示された。 再構成系による結合部位の同定を行い、免疫沈降実験により、GEP100のPHドメインおよびGrb2のSH2ドメイン、SH3Nドメインが両分子の結合部位であることが判明した。 さらに変異型Grb2-R86Kを作成、発現させたところ、変異Grb2は活性化EGFRとの結合能が消失した。この変異型Grb2を肺癌細胞株に過剰発現させたところ、活性化EGFRとGEP100との結合およびArf6活性化が抑制され、EGFRとGrb2との結合能がGEP100-Arf6経路の活性化に重要な役割を果たすことが示され、本経路の抑制には、EGFR-Grb2、Grb2-GEP100、EGFR-GEP100結合部位の阻害が有用である可能性が示唆された。 また、これらの分子の臨床的意義を確認するため、我々の施設で外科的切除を行った肺腺癌239例について、TissueMicroArrayを作成し、免疫染色を行い、その発現強度に応じたグループ分類を行ったところリン酸化EGFR発現例においては、Grb2、GEP100の共発現群では、有意にE-cadherin減少、Vimentin増加がみられ、またリンパ節転移頻度の増加や無再発生存期間の短縮がみられた。
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