研究課題
これまで我々は肺の組織修復・再生を目的として胎生期肺組織に着目して胎性期肺組織移植の実験的検討を行ってきた。胎生期肺組織の特徴として胎生期肺組織のi)肺への分化の方向付けがなされている,ii) 増殖能が旺盛である,iii) “足場“となる細胞が存在することであり、その結果として成体肺内に胎性期肺組織を移植した場合には、移植した胎性期肺組織が成体肺内で生着し、分化、成長すると考えられる。成体肺組織を成体肺内に移植しても生着し難い。ラットでの検討では、移植胎性期肺組織の生着範囲を、SRY遺伝子をFISH法で検出する方法で検討した。ブレオマイシン誘導肺線維症肺を作成し、胎性期肺組織を移植する検討では、障害肺内に移植した胎性期肺組織が生着することを示した。移植した胎性期肺組織が成体肺内に生着し、分化、成長していく状況を観察すると気管支の分岐が形成されてゆく。TTF-1で染色すると、気管支の先端部分にTTF-1が発現しており、気管支の延伸と共にTTF-1の好染部分も移動してゆく。正常の肺の発生で認められるような気管支の分岐を模倣した分岐が、移植した胎性期肺組織移植組織の中においても認められる点に関しては大変興味がある。Airway branchingに関してはRJ Metzgerらが3つのサブルーチンプログラムを利用して成長していくことが示されているが、この仕組の発動機序は、反応拡散モデルにより説明できる可能性があると考える。すなわち、胎性期組織移植では、足場となる間質も移植されており、気管支の成長する場では気管支と周囲の間質間での促進物質と抑制物質の相互作用(反応拡散)が起こり得る環境が存在しているからであると考える。豚でも胎性期肺組織が生着するが、生着は容易ではない。豚では用いるドナーとレシピエントのMHCの差により免疫抑制療法を施行する必要があるためと考えている。