心停止ドナーからの肺移植後の虚血再灌流障害におけるmolecular mechanismはいまだ不明な部分が多く、臨床応用のためにもそのmechanismの解明は必要である。今までのわれわれの研究成果では、心停止ドナーからの肺移植後の虚血再灌流障害は生体・脳死肺移植後の虚血再灌流障害とは異なった病態であることが示唆されてきた。本研究では、心停止ドナーからの肺移植後の虚血再灌流障害のメカニズム、主に血管内皮細胞の働きを解明し、さらに虚血再灌流障害の抑制・予防することを目的とした。 まず、動物モデルとして、血管内皮細胞をGFPでVegfr-1 GFPマウスを用いた。ドナーマウスを失血死させ、室温で保存する心停止ドナー群と、4℃で保存する生体ドナー群を作成した。3時間保存後に気管支肺胞洗浄を行い、フローサイトメトリーで分析したところ、心停止ドナー群のVegfr-1 GFPマウスからは多くのGFP陽性細胞が回収されていた。すなわち、破綻した血管内皮細胞が気道内から回収されるという発見であり、血管内皮細胞は再灌流前の温虚血時にすでに破綻していると考えられた。さらに、マウス虚血再灌流障害モデルも用いた。1時間の虚血と2時間の再灌流で検討したところ、虚血前にR-spondin 3を投与した群では、虚血再灌流障害が抑制されていた。R-spondin 3による炎症性サイトカイン、アポトーシスの抑制も確認された。R-spondin 3による血管内皮細胞間の接着を強固にする作用が、虚血再灌流障害に有効である可能性が示唆された。
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