最終年度までに105例(男93例、70.6±6.2歳)の無症候性頚動脈狭窄症(狭窄率81.8±9.6%)が登録された. 1.105例における認知機能評価:結晶性知能のWAIS-R2下位検査は101.9±12.0、JARTは99.2±13.7で健常値と比して有意差はなかった.流動性知能のRBANSは即時記憶82.5±14.8、視空間構成96.3±14.3、言語87.8±10.7、注意82.4±15.4、遅延記憶85.1±18.3、総指標82.9±13.2であり、健常値と比して全ての尺度で有意な低下を認めた(p<0.01).結晶性知能と流動性知能の間でディスクレパンシー分析を行った結果、即時記憶で69例、視空間構成26例、言語54例、注意63例、遅延記憶54例、総指標で78例に低下が認められた.結果、無症候性頚動脈狭窄症では90%以上の症例において何らかの高次脳機能低下があることが示された. 2.頚動脈ステント留置術(CAS)後の認知機能:105例中60症例にCASを施行した.治療3カ月後のRBANSの平均点は全ての尺度において有意な改善を示した.以上より無症候性頚動脈狭窄症では認知機能が軽度低下をきたし、それがCAS後に改善することが示唆された. 3.認知機能改善の要因:CASの60例中49例で、術前のMRIでFazekasによる深部虚血病変の分類を行った.側脳室周囲病変についてはタイプ0または1の軽度虚血例は40例、2または3の重度虚血例は9例、深部白質病変では軽度虚血例は22例、重度虚血例は27例であった.RBANS総指標が改善しない群では深部白質の重度虚血が有意に多かった(χ二乗検定、p=0.013).深部白質病変が軽度であることが、CAS後に高次機能が改善する条件となることが示唆された.
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