内因性もしくは移植された神経幹細胞は、脳虚血後に活性化され、神経再生に寄与することが知られている。しかしながら、現状では、その生存率や神経細胞への分化効率が低いことが大きな課題である。また、非致死的な刺激曝露(preconditioning)は、致死的な刺激に対する一過性の耐性(耐性現象)を誘導するが、神経幹細胞においても同様の現象が報告されている。 一方、ゲノムの持つ遺伝情報の発現は、“エピジェネティクス”と呼ばれるクロマチンの化学的、構造的な修飾によっても制御されており、そのメカニズムは主にDNAのメチル化およびヒストン蛋白質の化学修飾から成り立っている。近年の研究により、神経幹細胞の自己複製、増殖分化のみならず、耐性現象の獲得においても、このエピジェネティクスが重要な役割を果たすことが解明されてきている。 本研究の目的は虚血後神経幹細胞のエピゲノム解析により、新たな神経幹細胞の制御メカニズムを解明することである。分離培養したマウス神経幹細胞を24時間の低酸素で刺激し、preconditioningを施行した。このhypoxic preconditioningは、その後の致死的OGDおよびヘモグロビン暴露による細胞障害に対して著明な保護効果を示した。また、神経幹細胞へのpreconditioningにより脳出血モデルでの移植後生存率が有意に上昇し、preconditioningを施行していない神経幹細胞による移植治療と比べ、出血後の神経機能も有意に改善させた。このようなpreconditioningされた神経幹細胞では、ヒストン蛋白質の化学修飾(メチル化)が変化している傾向を認め、エピジェネティックなメカニズムが耐性獲得に関与している可能性が示唆された。
|