研究課題/領域番号 |
26462162
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
久門 良明 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座教授 (80127894)
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研究分担者 |
渡邉 英昭 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30322275)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / マクロファージ / NG2 / CD200 / 神経栄養因子 |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究は、(1) 脳梗塞巣中心部から分離培養したマクロファージ様細胞にリポポリサッカライド(LPS)を添加して活性化させた条件で、CD200、CD200R(受容体)、ならびに起炎症性メディエータや神経栄養因子の発現を測定し、そのような環境下での変化を明らかにすること、 (2) CD200を強制発現させたC6細胞株を作成し、マクロファージ様細胞との混合培養を行い、CD200の高発現環境下での起炎症性メディエータや神経栄養因子発現への影響を明らかにすることを目的として行なった。 その結果、培養マクロファージ様細胞にはCD200、CD200Rの高発現が認められ、脳梗塞巣の免疫組織染色で多くのマクロファージ様細胞がCD200陽性/CD200R陽性であったが、LPSの添加でマクロファージ様細胞のCD200の発現が増加することを明らかにした。また、CD200高発現のC6細胞との混合培養で、マクロファージ様細胞のiNOSや炎症性サイトカインの発現が増加し、神経保護的因子の発現は低下することを示した。これらの所見は、マクロファージ様細胞は、活性化された条件においてCD200を発現し、CD200はマクロファージ様細胞に対して活性化を亢進させ、起炎症性に働くことが示唆された。 これらの所見は、CD200-CD200R相互作用が、骨髄系免疫系細胞の機能を抑制するという従来の知見と異なっていたが、平成26年度の研究結果より、(1) 梗塞巣に集簇するマクロファージには、NG2陽性細胞とCD200陽性細胞の2種類があり、梗塞巣中心部のCD200陽性細胞は起炎症性活性を有し、NG2陽性細胞は起炎症性メディエータや貪食能が抑制されていること、(2) CD200陽性細胞はCD200LとCD200Sを共発現しており、CD200L-CD200Rによる起炎症活性の抑制がCD200Sによって無効化されているためと推測している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、脳梗塞巣におけるCD200、CD200Rの遺伝子発現と蛋白発現の変化を明らかにするとともに、それらの局在を免疫組織化学的に経時的に観察し、以下のことを明らかにした。 脳梗塞巣のマクロファージは、NG2陽性細胞とCD200陽性細胞に分類でき、NG2陽性細胞はCD200陰性、CD200陽性細胞はNG2陰性であった。また、Iba1陽性細胞(マクロファージ)は、ほぼ全てCD200Rを発現した。脳梗塞巣のマクロファージが発現するCD200は、そのcDNA配列を解析により、exon1、2およびexon3の一部に由来する配列が欠損したCD200-truncated form (CD200S)を発現し、脳梗塞巣中心部ではCD200SがCD200-full-length (CD200L)に比べてmRNAの発現が高かった。Western blotting法でのCD200蛋白の発現解析では、OX2抗体では脳梗塞巣対側や辺縁に、抗CD200 C末抗体では脳梗塞中心部に高発現した(吸収試験で抗CD200 C末抗体はCD200Sの、OX2抗体はCD200Lの特異的抗体と考えられた)。免疫組織染色では、多くのCD200陽性細胞は、CD200LとCD200Sを共発現していた。NG2陽性細胞は梗塞巣皮質に、CD200陽性細胞は梗塞巣脳梁に集簇しており、NG2陽性細胞周辺にはOX2抗体のみ陽性のCD200陽性変性組織が多量に存在した。 これらの所見より、梗塞巣マクロファージには、NG2陽性細胞とCD200陽性細胞の2種類があり、梗塞巣中心部のCD200陽性細胞は起炎症性活性をもち、NG2陽性細胞は起炎症性メディエータや貪食能が抑制されていると考えられた。NG2陽性細胞の周囲には神経細胞由来と考えられるCD200L陽性変性組織が存在し、CD200L陽性組織と自身のCD200Rとの相互作用による起炎症反応の抑制効果が示唆された。また、CD200陽性細胞はCD200LとCD200Sを共発現しており、CD200L-CD200Rによる起炎症活性の抑制がCD200Sによって無効化されていると考えられた。これらの結果は、平成27年度の研究結果の解釈と平成28年度の方向決定に役立っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究は、(1) CD200を強制発現させたC6細胞株とマクロファージ様細胞との混合培養に抗CD200R抗体を添加してCD200-CD200R相互作用を阻害する環境をつくり、起炎症性メディエータや神経栄養因子発現への影響を明らかにすること、(2) 虚血ラットに抗CD200R抗体を注入することによる脳梗塞治療効果を明らかにすることを目的に行なう。そして、以下の結果を推測している。 培養マクロファージ様細胞は、多くがCD200、CD200Rを高発現しており、LPS添加によりCD200発現がさらに増強する。CD200高発現C6細胞と混合培養するとLPS誘発マクロファージ様細胞のiNOS発現が増加するが、CD200-CD200R相互作用を阻害する抗CD200R抗体の添加によってiNOS発現が抑制され、神経栄養因子の発現が亢進される。その結果、脳梗塞進展を抑制することが見込まれる。 CD200の高発現は、マクロファージ様細胞活性の抑制作用を示す過去の報告に反して活性化を促進したが、この作用はCD200Sによる特異作用の可能性がある。そのため、CD200Sをブロックする抗CD200S抗体を作成できれば、CD200Lによる炎症抑制を損なうことがないため、特異的効果も確認できる。 以上の結果が得られた場合には、CD200-CD200R相互作用を通じた脳梗塞巣における炎症反応調節メカニズムの存在を証明でき、新たな治療法の開発につながることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の出費が見込まれたため、研究のための動物、薬品や機器の購入を控え気味にしたことと、研究内容の学会発表の機会をおさえたことが理由と考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、予定通りに研究目的の動物、薬品、機器を購入し、研究成果の学会発表の機会を設ける計画である。
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