研究課題/領域番号 |
26462163
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
脇坂 義信 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50631694)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高血圧性脳出血 / 脳血管周皮細胞 / アンギオテンシン |
研究実績の概要 |
脳血管周皮細胞の生存には血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor: PDGF)の受容体を介した細胞内シグナル伝達が重要であり、PDGF受容体発現抑制マウス(pdgfrβ+/-マウス)では脳血管周皮細胞発現が抑制される。一方、研究代表者らは、アンギオテンシン(Ang)-II皮下灌流とL-NAME(一酸化窒素合成酵素阻害薬)内服による慢性高血圧下に、Ang-IIによる急性高血圧を誘導することで高血圧性脳出血を発症するマウスモデルを確立した(Wakisaka Y, et al. J Cereb Blood Flow Metab 2010)。ただしL-NAMEによる一酸化窒素産生阻害は、これまで血管内皮障害モデルとして使用されてきている。そのため平成26年度は脳血管周皮細胞の障害に焦点をあてるため、L-NAMEの投与は行わずに、Ang-II皮下灌流(1500ng/kg/min)のみにより慢性高血圧状態とした後に、Ang-II (0.5μg/g)皮下注(2回/日, 連日, 最長3週間)による一過性の急性高血圧を誘導して脳出血モデルの作成を試みた。 8ヶ月齢の雄pdgfrβ+/-マウスに対してAng-II皮下灌流を開始したところ、既報と同様に開始3-4日目までには収縮期血圧は100mmHg前後から160mmHg前後まで上昇した。その後慢性高血圧作成7日目より一過性の急性高血圧を誘発するためにAng-IIを皮下投与した。当初は既報と同様に収縮期血圧230mmHg前後まで上昇することを期待していたが収縮期血圧は180mmHg前後までしか上昇を示さなかった。また慢性作成開始4週間後まで3週間連日Ang-IIを皮下投与して慢性高血圧に一過性急性高血圧を誘導したが、他覚的に明らかな神経症状を示さず、肉眼的に明らかな脳出血発症を認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度に作成したマウスモデルは、既報の方法とは1) pdgfrβ+/-マウスを用いてること、2) 慢性高血圧とするためにL-NAMEを用いず、一方でAng-IIの皮下灌流濃度を1000ng/kg/minから1500ng/kg/minとしたこと、の2点で異なっている。 pdgfrβ+/-マウスは仔の出生数が少ないため、種々の薬剤投与量によるモデル作成を試みることが困難であった。またAng-IIの皮下灌流濃度を増したことにより慢性高血圧状態下で既報と比較してAng-II受容体占有率が亢進し、そのために急性高血圧を誘導する際にAng-II皮下注を行っても効果的な急性血圧上昇を誘発することができなかった可能性が考えられる。 上記の理由によりpdgfrβ+/-マウスにおいて脳出血の発症を誘発させることができなかったと思われる。そのためpdgfrβ+/-マウスにおけるAng-II刺激による慢性また急性の血圧変化は測定できたものの、PDGF受容体刺激抑制の有無による脳出血発症率・脳出血量の差異を評価することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
pdgfrβ+/-マウスを用いて高血圧性脳出血の発症機序を解明する研究を推進するために、まず、1)pdgfrβ+/-マウスの飼育数を増やすことにより研究に用いることができるマウスを確保する、2)既報と同様の方法(慢性高血圧の作成にL-NAME内服を併用するとともにAng-II皮下灌流濃度を1000ng/kg/minに下げる)を用いて脳出血の発症を確かなものにする。 pdgfrβ+/-マウスとそのコントロールマウスにおいて脳出血発症率や出血量に差異を認めない場合は、脳血管周皮細胞の発現の程度に脳出血発症が関連する可能性は低いと考えられる。一方で脳出血発症に活性酸素レベルの亢進が関連することが知られているため、脳血管周皮細胞での活性酸素レベル亢進が脳出血発症に関連するか否かの検討を行っていく。脳血管周皮細胞に活性酸素生成酵素であるNox4を過剰発現させているマウスとそのコントロールマウスを用いた高血圧性脳出血モデルを作成し、脳血管周皮細胞での酸化ストレス亢進により、脳出血発症率や出血量が亢進するか否かを検討する。 脳出血率、出血量の差異を認めた場合には、1)活性酸素レベルの評価、2)脳血管周皮細胞の喪失の有無、3)血液脳関門破綻と血管周囲細胞外基質分解の有無を評価していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
pdgfrβ+/-マウスの出生数が少なく、研究遂行に必要なpdgfrβ+/-マウスを確保することができなかったこと、またマウスに慢性高血圧に一過性急性高血圧を誘導することで脳出血が発症することを期待していたが、脳出血の発症を確認できず、当初予定していた脳出血量の評価や脳出血発症機序の解明に必要な試薬の購入を行わなかったことにより、平成26年度の支出額が予算額より少なくなり、そのために次年度使用額を生じることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
pdgfrβ+/-マウスの交配を多く行うことにより、研究遂行に必要なpdgfrβ+/-マウスとそのコントロールマウスの数を確保していく。また高血圧性脳出血を誘発する方法を改善することにより高血圧性脳出血を発症するマウスを確保する。脳出血を発症したマウスと発症していないマウスの脳組織を用いて、1)活性酸素レベルの評価、2)血液脳関門破綻と血管周皮細胞外基質分解の評価、3)周皮細胞喪失の評価を行っていく。 これらに高血圧性脳出血モデル作成に必要な試薬(Ang-II、L-NAME)や試薬投与器具(浸透圧ポンプ)、また脳組織評価に必要な抗体や実験試薬の購入に助成金を使用する。
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