研究実績の概要 |
血管・免疫系で重要な役割を担う、脂質メディエーターのスフィンゴシン1リン酸(S1P)が、血液脳関門(Blood-Brain Barrier, BBB)機能調節の一因となりうるか検証した。S1Pは、スフィンゴキナーゼによりスフィンゴシンから生成され、細胞外に分泌される。S1Pはその受容体であるS1P/Edg受容体(S1P受容体、S1P1~S1P5、G蛋白質共役型受容体)を介して、生理作用を示す。そこで、S1PのBBBタイトジャンクション機能(バリアー機能)への影響を検討するために、内皮細胞の単層培養系を作製し、S1P受容体のアゴニスト(FTY 720, SEW2871)、スフィンゴシンキナーゼの阻害剤(SKI-II)の影響を検討した。S1Pアゴニスト(FTY (100 nM), SEW (1μM)) により、BBBのバリアー機能低下が観察された。SEWはS1P1のアゴニストであり、BBBのバリアー機能低下にはS1P1受容体が関与すると考えられた。SKI-II(10μM)では、バリアー機能の低下が観察された。SKI-IIの投与により、細胞内にスフィンゴシンが蓄積して細胞障害が起こったものと考えられるが、更なる検討が必要である。一方、虚血下(病態時)でのスフィンゴシンキナーゼの役割検討も行ったところ、SKI-IIの投与により、虚血障害が軽減されることを確認した。このことは正常時および虚血時におけるS1PシグナルまたはS1P細胞内動態が異なる可能性を示している。本年度の研究により、S1PシグナルがBBBの生理的および病態時において、BBB機能調節因子として働いていることが判明した。
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